金属の焼き入れとは?硬さと耐久性を生む熱処理の基本
熱処理の方法には「焼入れ」「焼戻し」「焼なまし」「焼ならし」といったパターンがあります。
今回は主に焼入れについて、特徴や方法などを記事にしました。
製造業に携わる方はご存じの方ばかりだと思いますが、是非ご覧ください♪

焼入れとは
焼き入れは、金属を高温に加熱し、その後急冷することで、金属内部の組織を変化させ、硬度や耐摩耗性を高める熱処理方法です。
主に鉄鋼材料に対して行われ、特に炭素鋼などの鋼に適しています。
焼き入れの目的は、金属の表面や全体を硬化させることで、切削工具や金型、歯車、軸受など、高い強度や耐摩耗性が求められる部品に最適な性質を持たせることにあります。
この処理は単独で用いられることもありますが、焼き戻しや焼きなましなど、他の熱処理と組み合わせることで、より適した機械的性質を引き出すことも可能です。
焼き入れの対象材料と特性
焼き入れに適した材料は主に「鉄を主成分とする鋼」であり、その中でも特に重要なのが炭素の含有量です。
炭素は、焼き入れによる硬化性(マルテンサイト変態)を左右する最も基本的な要素であり、焼き入れ性の境界は一般に炭素含有量0.3%程度とされます。
これを下回ると硬化しにくく、0.6%を超えると逆に割れやすくなる傾向があります。
また、合金元素(クロム、モリブデン、ニッケル、バナジウムなど)が加わると「焼き入れ性」が向上します。
これらの元素はオーステナイトの安定性を高め、より深部までマルテンサイト化が可能になるため、冷却速度が遅くても硬化する「深焼き入れ」が可能になります。
たとえば、SKD11(高炭素高クロム鋼)は金型や刃物などに広く使われ、焼き入れ後も非常に高い硬度と耐摩耗性を誇ります。
また、ステンレス鋼の中でもマルテンサイト系ステンレス(例:SUS420)は焼き入れが可能です。
これに対して、オーステナイト系ステンレス(例:SUS304)は焼き入れによる硬化はほとんど期待できません。
焼き入れの目的が単に「硬くする」だけでなく、「表面のみ硬くして芯は柔らかく保つ」ことで靭性や衝撃性を維持するケースもあります。
このような設計には合金鋼の選定や、表面焼き入れとの組み合わせが重要です。
材質と焼き入れ条件はセットで検討すべきポイントであり、部品の使用環境(摩耗・衝撃・温度変化など)も選定時に考慮されます。
材料名 | 炭素量(%) | 焼き入れ性 | 用途例 |
S45C | 約0.45 | 〇(水冷推奨) | 機械部品 |
SKD11 | 約1.5 | ◎(油冷) | 金型・刃物 |
SUS420 | 約0.3~0.4 | 〇(空冷) | 刃物・バルブ部品 |
SUS304 | - | ✕(不可) | 食品機械・装飾用 |
焼き入れの工程と方法
加熱工程と温度管理
焼き入れで最も重要な工程の一つが、適切な温度での加熱です。
通常、鋼材はおよそ750〜950℃まで加熱され、オーステナイトと呼ばれる組織に変化します。
この加熱温度は鋼の種類や成分により異なり、過熱しすぎると粒が粗大化して逆に脆くなったり、焼き割れを起こしたりするため、厳密な温度管理が求められます。
加熱方法には電気炉やガス炉、誘導加熱などがあり、部品の形状や数量、求められる品質によって使い分けられます。
均一な加熱を行うためには、時間をかけて内部まで十分に温度を通すことがポイントです。
急冷方法と冷却媒体
加熱された金属を急冷することで、内部組織を硬く変化させるのが焼き入れの核となる工程です。
冷却媒体には、水、油、空気、特殊なポリマー液などがあり、それぞれ冷却速度に違いがあります。
冷却速度が速いほど硬化しやすい反面、ひずみや割れのリスクも増えるため、材質と用途に応じた冷却方法の選定が必要です。
例えば、炭素鋼では水冷が多く、合金鋼では油冷や空冷が使われます。
焼き入れ後の製品は非常に硬くなりますが、その分もろくなるため、実用には「焼き戻し」との併用が欠かせません。
焼き入れ後の処理と性質の変化
焼き戻しの目的と効果
焼き入れによって得られるマルテンサイトは非常に硬い反面、衝撃や引っ張りに対してもろく壊れやすくなっています。
そのため、通常は焼き戻しと呼ばれる処理を行って、硬度と靭性のバランスを調整します。
焼き戻しは200〜650℃程度の温度で再加熱し、マルテンサイトの中に残る内部応力を緩和させるとともに、ある程度の組織変化を促して靭性を向上させます。
工具などでは高硬度を保つために低温で焼き戻しを行い、機械部品などでは衝撃に耐えるように中〜高温で行うことが一般的です。
焼き割れ・変形への対策
焼き入れでは、急冷によって内部に大きな応力が生じるため、焼き割れや寸法変化(歪み)が生じることがあります。
特に形状が複雑な部品や厚みの不均一な部分では、応力の集中が起きやすく、ひび割れや破損のリスクが高まります。
これを防ぐためには、適切な加熱・冷却条件の選定、前処理(焼きなましなど)、材料設計段階での工夫が重要です。
また、焼き入れ後に機械加工を行う場合も、変形を見越した設計や余肉設定が不可欠です。
焼き入れの種類と応用技術
表面焼き入れと全体焼き入れの違い
焼き入れには、部品全体を硬化させる「全体焼き入れ」と、必要な部分だけを硬化させる「表面焼き入れ」があります。
全体焼き入れは強度が全体に必要な部品に適しており、一方、表面焼き入れは耐摩耗性を持たせつつ内部は柔らかさを保つことで、衝撃に強く仕上げたい部品に用いられます。
表面焼き入れには高周波焼き入れや火炎焼き入れなどがあり、特にギアやカムシャフトなどに多く使用されます。
これらは短時間で表面を局所加熱し、急冷することで硬化させる手法です。
焼き入れの用途と産業別活用例
焼き入れは、自動車部品、工具、産業機械、建設機械、航空機など、多岐にわたる産業で使用されています。
例えば、自動車のドライブシャフトやギアは高周波焼き入れによって高い耐摩耗性が確保されており、金型は全体焼き入れと精密な焼き戻しで長寿命化が図られています。
また、最近ではレーザー焼き入れなどの新しい技術も開発されており、より高精度かつ省エネでの加工が可能になりつつあります。
焼き入れ技術は、製品寿命と信頼性を大きく左右するため、今後も技術革新が求められる分野です。
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