SUS303とは何か?~ステンレス鋼材の代表格のひとつ~
本日は金属加工業ではなじみのある金属「SUS303」について少し解説していきたいと思います。
304との違いなどにも触れていますので是非ご覧ください♪

SUS303とは
SUS303はオーステナイト系ステンレス鋼の一種で、「快削ステンレス」とも呼ばれる材料です。
主に機械加工性を向上させるために、基本成分のSUS304に硫黄(S)やセレン(Se)などを添加しています。
これにより、切削抵抗が低下し、工具の寿命が延び、加工効率が向上するというメリットがあります。
機械部品、精密部品、ボルト・ナットなどの量産部品に多用される理由はその加工性の高さにあります。
ただし、硫黄などの添加によって耐食性はSUS304に比べてやや劣るため、用途選定には注意が必要です。
化学成分と機械的性質
SUS303の化学成分には、主に以下のようなものが含まれます。
・クロム(Cr): 約17%
・ニッケル(Ni): 約8%
・硫黄(S): 約0.15〜0.35%
・セレン(Se): 特殊グレードで代替使用可
この組成により、オーステナイト系の組織を保ちながらも切削性を高めています。
機械的性質としては、引張強さ520MPa以上、耐力205MPa以上、伸びは30%以上とされています。
耐食性や溶接性はSUS304よりも劣る点を踏まえて設計することが重要です。
SUS303の用途と使用例
代表的な用途
SUS303はその加工性から、大量生産される機械部品に最適です。
具体的には以下のような分野で使用されています。
・自動車部品(シャフト、ピン、センサーハウジング)
・電子機器部品(コネクタ、ネジ)
・食品機械(簡易構造部品)
・一般機械(軸受け部品、スペーサー)
これらの製品は高精度な加工が必要とされる一方で、溶接や曲げ加工の必要性が少ないため、SUS303の特性が活きる場面といえます。
SUS303を選定する際の注意点
SUS303を選ぶ際には「使用環境」と「必要性能」のバランスが重要です。
たとえば腐食性の高い環境では、耐食性に優れたSUS304やSUS316のほうが適しています。
また、溶接が必要な構造ではSUS303は適していません。
切削中心の加工工程がメインで、強度や耐久性よりも生産効率やコストが重視される場面において、SUS303は非常に優れた選択肢となります。
SUS303とSUS304の違い
SUS303とSUS304は、どちらもオーステナイト系ステンレス鋼に分類され、見た目はほとんど変わりませんが、その性質や適した用途には明確な違いがあります。
特に「加工性」「耐食性」「溶接性」という観点で比較すると、それぞれの長所と短所が浮き彫りになります。
ここではこの3点に注目して詳しく解説します。
加工性:SUS303が圧倒的に優位
SUS303は「快削鋼」として設計されており、機械加工のしやすさが最大の特長です。
これは、SUS304に比べて硫黄(S)やセレン(Se)を添加することで被削性を高めているためです。
硫黄の働きにより、切削時に生成される切粉が細かく、工具との摩擦が軽減されるため、工具寿命が延びる、加工速度を速くできるといったメリットがあります。
一方、SUS304は粘り強く、加工中に工具が「かじる(焼き付き)」ことが多く、特にドリルやタップ加工では加工熱によるトラブルが発生しやすいです。
そのため、高精度な量産部品の切削にはSUS303が好まれます。
自動旋盤やNC旋盤による大量加工では、SUS303を使用することで加工効率が大幅に向上します。
耐食性:SUS304が優れる
耐食性という観点では、SUS304が明らかに優れています。
SUS304はクロム(約18%)とニッケル(約8%)を含むことで、優れた耐酸化性・耐腐食性を発揮します。
食品加工機械、医療機器、屋外設備など、湿気や薬品、塩分などにさらされる環境でも問題なく使用できます。
対してSUS303は、硫黄の添加によって粒界腐食や孔食のリスクが高まるため、腐食環境には不向きです。
たとえば、海水に接触する場所や塩分を含んだ空気環境では、腐食が進行しやすく、長期間の使用には不安が残ります。
そのため、屋内での使用や、構造物内部の部品など、環境影響の少ない箇所で使用されることが一般的です。
溶接性:SUS304が圧倒的に有利
溶接性についても、SUS304が大きくリードします。
SUS304は溶接後の割れや変形が少なく、TIG溶接やMAG溶接、スポット溶接などさまざまな溶接方法に対応可能です。
ステンレス製のフレーム、タンク、構造材などに幅広く使われている理由の一つです。
SUS303は、硫黄の添加が溶接熱により割れの原因となるため、基本的に溶接には不向きです。
特に熱割れが発生しやすく、強度が低下する可能性があるため、溶接が必要な構造設計には適していません。
やむを得ずSUS303を溶接する場合は、低入熱・多パス溶接や溶接後の焼鈍処理など、慎重な溶接条件の検討が必要となりますが、基本的には避けるのがベストです。
まとめ:適材適所で使い分けることが重要
比較項目 | SUS303 | SUS304 |
---|---|---|
加工性 | ◎ 快削性に優れる | △ 粘りがあり加工しづらい |
耐食性 | △ 硫黄の影響でやや劣る | ◎ 優れた耐食性 |
溶接性 | × 熱割れのリスクあり | ◎ 優れた溶接性 |
このように、SUS303とSUS304は見た目は似ていても、用途によって大きな違いがあります。
切削加工がメインで、耐食性や溶接性がそれほど求められない場合はSUS303が最適。
一方、厳しい環境下や溶接構造の場合はSUS304を選択すべきです。
設計段階でこの違いを理解し、適切な材料選定を行うことが、製品の信頼性とコスト効率を両立させる鍵となります。
SUS303の加工のポイント
SUS303は、ステンレス鋼の中でも「快削ステンレス」と呼ばれるほど、機械加工に適した材料です。
その理由は、SUS304をベースに硫黄(S)やセレン(Se)などを添加することで切削性を高めているからです。
特にNC旋盤やマシニングセンタなどによる量産切削加工に適しており、自動車部品や電子部品、機構部品などで広く使用されています。
しかし、いくら加工性が高いとはいえ、SUS303特有の性質を理解しないまま加工すると、工具摩耗や寸法誤差、面粗さの悪化などの問題が発生する可能性があります。
以下では、SUS303を加工する際の重要なポイントを紹介します。
① 工具選定:耐摩耗性と切れ味の両立が鍵
SUS303は比較的切削しやすいとはいえ、オーステナイト系ステンレス鋼としての粘りや熱伝導の悪さは残っています。
そのため、使用する工具には以下の特徴が求められます。
・コーティング工具(TiAlNやTiCNなど):切削熱に強く、工具寿命を延ばす効果があります。
・超硬合金工具:高い切れ味と剛性を持ち、連続加工にも耐えられます。
・シャープな刃先設計:切削抵抗を抑え、バリの発生や焼き付きを防止します。
工具選定時は、単に「硬い工具」よりも「切れ味が良く、耐熱性に優れた工具」が適していると覚えておくと良いでしょう。
② 切削条件:適正な切削速度と送りでバランスを取る
SUS303は高切削速度に対応できる素材ですが、工具寿命を考慮して最適な条件設定が必要です。
・切削速度(Vc):80~150 m/min(工具によって調整)
・送り速度(f):0.05~0.2 mm/rev(加工精度による)
・切り込み量(ap):粗加工では1.5mm以上、仕上げでは0.3mm程度
重要なのは、無理な条件設定で切削温度が過剰に上昇すると焼き付きや表面劣化が発生するという点です。
仕上げ加工では切削液をしっかり使用し、刃物が材料を「削る」ではなく「押しつぶす」ような状態にならないように注意が必要です。
③ 切削液の活用:焼き付き防止と面粗度向上に効果的
SUS303の加工では焼き付きが比較的起こりにくいですが、高速回転や連続加工ではやはり熱が蓄積されやすくなります。
そのため、以下の点に注意して切削液を活用しましょう。
・水溶性切削液:冷却性能が高く、仕上げ面の光沢向上にも効果的。
・油性切削液:ねばり強く、難削材用に効果的(ただし洗浄性がやや劣る)。
・ミスト加工:局所冷却と潤滑を両立し、環境配慮型加工に適する。
特にタッピングやねじ切りなど、局部的に応力の集中しやすい加工では、切削油の選定が工具寿命に直結します。
④ バリの抑制と仕上げ精度の向上
SUS303は切削性に優れる一方で、バリ(切り残しの突起)が発生しやすい傾向があります。
特に細穴加工や外形エッジ部では、加工条件が不適切だとバリ取り工程が増えてしまい、トータルのコストや時間が増大します。
バリを抑えるための工夫としては
・仕上げ用の低送り・浅切り設定
・バリ発生部に面取り加工を追加
・工具の摩耗チェックと早めの交換
また、面粗さの要求が厳しい場合には、仕上げ用の別工程(研磨やバフ研磨)を用いることも選択肢の一つです。
⑤ 材料ロット差にも注意
SUS303は硫黄やセレンの添加量がメーカーやロットによって若干異なることがあり、それによって硬度や切削性に微妙な違いが出る場合があります。
量産においては、ロットごとの確認やトライ加工による事前テストを行うことで、安定した加工品質を維持できます。
まとめ
SUS303は、快削性に優れたステンレス鋼であり、工具選定・切削条件・切削液管理を適切に行えば非常に高効率な加工が可能です。
ただし、熱のこもりやすさやバリの発生といった課題もあるため、細やかな条件設定と管理が重要です。
大量生産や精密部品の加工においては、SUS303の持つ「加工性の高さ」を最大限に引き出すことが、生産性と品質の両立につながります。
SUS303の使用時の注意点
SUS303は加工性に優れた快削ステンレス鋼として、機械加工部品や精密機構部品に多く使われていますが、「使いやすい=万能」ではありません。
特に耐食性や熱処理の性質において、SUS304など他のステンレス鋼とは異なる注意点が存在します。
その性質を理解しないまま使用すると、腐食や破損などのトラブルにつながる可能性があるため、設計・加工・運用段階での正しい取り扱いが重要です。
① 耐食性に関する注意点:硫黄添加のデメリット
SUS303の最大の弱点は、「SUS304に比べて耐食性が劣る」という点です。
これは、快削性を高めるために硫黄(S)やセレン(Se)を添加していることに起因します。
硫黄は鋼材内部に「MnS(硫化マンガン)」という介在物を形成し、これが切削性を高める一方で、粒界腐食や孔食(小さな穴状の腐食)を引き起こす原因となります。
とくに以下のような環境では、SUS303は注意が必要です。
・海岸地域や塩分の多い空気にさらされる環境
・湿度が高く、結露が発生しやすい装置内部
・塩素系洗浄剤や強酸性の液体に接触する場合
これらの環境では、点状腐食が進行しやすく、外観や強度に影響を及ぼします。
そのため、SUS303は屋内での使用や、腐食のリスクが少ない密閉構造内部の部品に限定するのが原則です。
屋外や湿潤環境下では、SUS304またはより耐食性に優れたSUS316の採用が推奨されます。
② 熱処理に関する注意点:焼入れ不可、焼鈍に留意
SUS303はオーステナイト系ステンレス鋼であるため、一般的な焼入れ(急冷による硬化)によって硬化することはできません。
これは、マルテンサイト系のSUS420J2などと異なり、炭素含有量が低く、相変態を起こさないためです。
ただし、以下のような熱処理は可能です。
・固溶化熱処理(溶体化処理)
加熱後に急冷することで、応力除去や均質化を図る処理。
ただし、SUS303ではあまり一般的ではなく、耐食性の回復目的で行う場合が多いです。
・焼鈍処理(アニーリング)
機械加工後の残留応力を除去するために行われます。
目安としては1000~1100℃程度で加熱し、空冷または水冷を行います。
ただし、焼鈍後の表面は酸化スケールが発生しやすく、腐食耐性が低下するため、酸洗いやパッシベーション処理(不動態化処理)を組み合わせる必要があります。
一方で、SUS303は熱に弱い介在物(MnS)を多く含むため、高温に長時間さらされると粗大化して機械的性質や耐食性が悪化します。
長時間の溶接や高温使用では、強度低下や粒界腐食のリスクがあるため注意が必要です。
③ 応力腐食割れ(SCC)や高温酸化にも注意
SUS303は、塩化物イオン(Cl⁻)が存在する環境下で応力腐食割れ(SCC)が起こりやすいという特徴も持っています。
これは、内部応力が蓄積した状態(特に加工硬化後)で、塩素系成分に接触した場合に突然亀裂が進行して破損するという現象です。
また、SUS303は耐熱鋼ではないため、連続的な高温環境(400℃以上)では酸化スケールの成長や表面劣化が発生しやすくなります。
構造部材として高温下で使用する場合は、耐熱性に優れる他の材質(SUS310SやSUS316など)への切り替えを検討すべきです。
まとめ:SUS303の「使い所」を理解して設計する
SUS303は、切削加工性という面で非常に優れた特性を持つ一方で、耐食性や高温特性、溶接・熱処理の面では制限がある素材です。
これらの特性を理解せずに使用すると、部品の早期劣化や安全上のトラブルにつながる可能性があります。
設計段階で「どのような環境で使うのか」「耐久性はどこまで必要か」を明確にし、SUS303の性質に見合った用途に限定することで、安全かつ効率的なものづくりが実現できます。
SUS303の代表的な用途・活用事例
SUS303は、快削性(加工しやすさ)に特化したオーステナイト系ステンレス鋼であり、量産性や加工コストの最適化が求められる現場で多く採用されています。
特に、機械加工部品や小型精密部品など、切削工程を伴う製品に強みを発揮します。
以下では、SUS303が実際に使用される代表的な用途や、その背景となる理由について詳しく見ていきます。
① ねじ・ボルト・ナットなどの締結部品
SUS303は、ねじやボルト、ナットなどの小型で大量生産が必要な締結部品に多く使用されます。
ねじは旋盤や転造機で量産されることが多く、工具寿命や加工スピードが生産性に直結します。
SUS303は硫黄を添加してあるため、切りくずの分断性が高く、バリも出にくいため加工効率が非常に高いです。
そのため、NC自動旋盤や複合加工機との相性がよく、高精度・短納期での製造が可能になります。
見た目や耐食性もある程度確保されているため、外装部品にも適しています。
② 精密機器や電子機器のシャフト・ピン類
SUS303は、精密シャフト、ローラーピン、軸受部品などの小型回転部品にも使用されています。
これらの部品は、同軸度や真円度が重要で、高精度の切削仕上げが要求される分野です。
通常、オーステナイト系ステンレス鋼は加工硬化が大きく、工具への負担が高くなりますが、SUS303ではその点が緩和されています。
そのため、高精度加工が安定して行える材料として、多くの精密機器メーカーに採用されています。
③ 医療・食品業界向けの非接触部品やハンドル類
医療や食品業界では、本体装置や治具部品にステンレスが広く使われていますが、直接接触しない部品や外部構造体にはSUS303が適しています。
たとえば
・機器の外装カバーや操作ハンドル
・清掃可能なねじ止め部品
・作業台のキャスターシャフトや支柱パーツ
などが挙げられます。
ただし、耐薬品性や衛生基準を重視する場合はSUS304や316が優先されます。
SUS303はあくまで「外観性・加工性・コストを重視する補助的なパーツ」に使われるのが一般的です。
④ 航空・自動車業界での試作部品・治具
自動車や航空機業界では、研究開発や試作段階で多くの加工部品が必要になります。
ここでSUS303は、短納期で精度よく削れる材料として重宝されます。
たとえば
・エンジン周辺のプロトタイプシャフト
・装着確認用の治具部品
・測定用の段付きピン・位置決め部品
など、機能評価や形状確認に必要な加工治具・プロト品にSUS303が選ばれるケースが多く見られます。
加工性の良さから、単品~少量生産の現場での即納性が評価されている材料です。
⑤ 時計・カメラ・装飾金具などの外観部品
SUS303は見た目にも優れており、研磨やバフ仕上げによって美しい金属光沢を出すことが可能です。
そのため、機能部品と装飾性を両立した製品にも適しています。
具体例
・高級時計のケース枠や裏蓋
・カメラボディの操作ボタンやリング
・建築金物の取手やエッジガード
ただし、前述の通り耐食性はSUS304より劣るため、外観を保つには定期的なメンテナンスが必要です。
まとめ:コスト・加工性重視の部品に最適な素材
SUS303は、加工しやすく、大量生産にも向いた高効率なステンレス材です。
特に、機械加工を前提とした設計においては、他のステンレスに比べてトータルコストが下がる可能性が高いため、非常に魅力的な選択肢となります。
ただし、腐食環境や高温環境では別の材質が適するため、用途を的確に見極めることが重要です。
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