A5056とは?強度と耐食性に優れたアルミ合金の特徴
本日はA5056について解説していきます!
A5056の特徴や性質、A5052との違いなど分かりやすく解説しますので、是非ご覧ください♪

A5056とは
A5056の化学成分と分類
A5056は、日本のJIS規格におけるアルミニウム合金の一種で、5xxx系に分類されます。
主成分はアルミニウム(Al)ですが、5xxx系特有のマグネシウム(Mg)が約5%程度含まれており、このMgの含有によって優れた耐食性と中程度の強度を実現しています。
その他にも微量の鉄(Fe)、シリコン(Si)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)などが含まれています。
これらの微量元素は、結晶粒の微細化や耐食性の向上、溶接性の向上に寄与しています。
A5056は非熱処理型の合金であり、焼入れや時効硬化処理ではなく、冷間加工(塑性加工)によって強度を高める特性を持ちます。
そのため、機械的性質の調整が比較的容易であり、引張強さや降伏強さなどを冷間圧延や曲げ加工で調整することが可能です。
この合金はJIS H4000において「5056-H32」などといった記号で呼ばれ、後半の「H32」は加工硬化の程度を示しています。
A5056のこうした特徴から、構造材や船舶部材、建築材、工業用品など多岐にわたる分野で採用されています。
A5056の製造方法と供給形態
A5056は、主に圧延や押出、鍛造といった塑性加工によって製造される非熱処理型のアルミニウム合金です。
これらの製法を通じて、シート材、板材、棒材、パイプ材、ワイヤー材など多様な形状で供給されており、最終用途に応じた柔軟な加工が可能です。
まず、圧延による製造では、溶解・鋳造されたインゴット(鋳塊)を加熱しながらロールで延ばすことで、板材やシート材が得られます。
このプロセスによって製造されたA5056の板材は、軽量かつ強度が求められる輸送機器や構造材の一部として広く利用されています。
また、冷間圧延により強度や硬さを高めた「H32」などの加工硬化材としても市場に出回っています。
次に、押出によって作られるA5056の製品は、特に中空形状や複雑な断面形状を持つ部材に最適です。
押出成形されたパイプやアングル材などは、建築資材や通信機器の部品、配管用途などで重宝されます。
押出加工は断面形状の自由度が高く、設計の自由度を広げるメリットがあります。
また、鍛造によって製造されるA5056の製品は、特に高い機械的強度と靱性が要求される分野に適しています。
例えば、自動車の足回り部品や航空機用の接合部材など、応力集中が懸念される用途においても活用されています。
供給形態としては、JISやASTM、ISOなどの工業規格に準拠した寸法・物性を持つ製品が多数存在し、ユーザーのニーズに応じて選定可能です。
一般的には、厚み1mm〜10mm程度の板材、直径5mm〜200mm程度の棒材、外径10mm〜100mm程度のパイプ材などが流通しています。
また、特注対応でさらなるサイズ展開も可能なため、設計自由度の高い素材と言えるでしょう。
さらに、A5056はワイヤー材としても流通しており、これは主にアルミニウム溶接用のフィラー材(溶加材)として利用されています。
A5056製の溶接棒やワイヤーは、同じ5xxx系のアルミ合金との相性が良く、溶接後も高い耐食性と機械的強度を維持する特性があります。
このように、A5056は多様な製造法と供給形態を通じて、さまざまな産業のニーズに応える高機能なアルミニウム合金として広く利用されています。
用途や加工法に応じて、最適な形状と加工状態を選択することが、A5056を最大限に活用する鍵となります。
A5056の機械的性質と加工性
引張強さ・降伏強さ・伸び
A5056は、5xxx系アルミニウム合金の中でも特にバランスの取れた機械的性質を持つ素材として知られています。
その性能の中核をなすのが、「引張強さ」「降伏強さ」「伸び」といった基本的な機械的特性です。
これらの特性は、部材の設計や使用条件を決定する上で極めて重要な指標となります。
まず、引張強さ(Tensile Strength)とは、材料が引っ張られて破断するまでに耐える最大応力のことを指します。
A5056の場合、代表的な硬化処理状態であるH32では、引張強さは約310〜350MPaの範囲となります。
これは純アルミ(A1050など)や低Mg系のA5052に比べて高めであり、より高い応力が加わる場面でも耐えられることを意味します。
次に、降伏強さ(Yield Strength)は、材料が塑性変形(元に戻らない変形)を始める時点の応力です。
A5056-H32では約250MPa前後であり、これも5xxx系合金としては高い部類に入ります。
設計上はこの降伏点を超えないような力で運用するのが基本となるため、この値が高いほど信頼性のある構造設計が可能になります。 そして、伸び(Elongation)は、材料が破断するまでにどれだけ伸びるかを示す値で、通常は%で表されます。
A5056-H32での伸びは8〜12%程度であり、これは比較的良好な延性を持っていることを示しています。
加工硬化により強度が高まる一方で、ある程度の靱性や変形性能も保持しており、成形加工や衝撃吸収を伴う部品にも適用可能です。
これらの数値は、製品の形状や加工条件、さらには板厚や供給元によって若干異なることがありますが、概ね上記の範囲で設計・選定されています。
また、冷間加工や曲げ加工などを加えることで、引張強さや降伏強さをさらに高めることも可能ですが、その分伸びは減少する傾向にあります。
A5056の機械的性質は、強度と延性、加工性のバランスが取れていることが大きな特長です。
特に、構造材や輸送機器の部品など、ある程度の荷重を受けつつも腐食環境に耐える必要がある分野において、非常に優れた素材選択肢となります。
純アルミのような柔軟性には及ばないものの、十分な加工性を保ちながら強度も高いという特性が、A5056を高機能材料たらしめています。
溶接性と接合技術
A5056は、アルミニウム合金の中でも特に溶接性に優れた素材として知られており、その特性から多くの構造材や産業部品に用いられています。
特に、同じ5xxx系アルミとの溶接においては非常に相性が良く、接合後も高い耐食性と機械的性能を保持できることが評価されています。
まず、A5056は非熱処理型合金であるため、溶接熱による強度低下が他の合金に比べて少ないという特長があります。
これにより、TIG溶接(アルゴン溶接)やMIG溶接などのアーク溶接法を使っても、溶接部の機械的特性が比較的安定しており、構造用途にも安心して使用することができます。
特に、海洋構造物や車両部品など、耐食性と強度の両立が必要な用途では、A5056は溶接材料としても本体材料としても優れた性能を発揮します。
さらに注目すべきは、A5056が溶加材としても用いられる点です。
たとえば、A5052やA5083などの他の5xxx系アルミ合金を母材とする際に、A5056ワイヤーを用いたMIG溶接を行うことで、割れにくく耐食性の高い溶接部を実現できます。
これは、A5056に含まれるMgの量がやや多く、Mgの含有比が母材と合いやすいため、溶接時の合金組成が均一になりやすいからです。
一方、A5056は異種材料との溶接においては注意が必要です。
たとえば、熱処理型の6000系アルミ(A6061など)や7000系アルミ(A7075など)とは、組成の違いや熱膨張率の違いから、溶接部でひび割れや強度低下が起きやすくなります。
こうした場合には、中間層を設けたり、摩擦攪拌接合(FSW)などの特殊な接合技術を検討する必要があります。
また、ボルトやリベットなどによる機械的接合にも適しており、穴あけやタップ加工などを施して構造体を組み立てる用途でもよく使われます。
A5056は加工硬化しやすいため、機械加工後も十分な保持力を発揮しやすく、特に航空・宇宙や鉄道車両の分野で採用例があります。
このように、A5056の溶接性は、高い耐食性を維持しながら強度を確保したいというニーズにマッチしており、溶接構造を多用する現場では重宝される存在です。
母材としての性能だけでなく、フィラー材としての有用性も持つことで、接合技術の幅を広げる非常に優れた合金だと言えるでしょう。
切削性と塑性加工性
A5056は、アルミニウム合金の中でも中程度の切削性と高い塑性加工性を兼ね備えた素材として知られています。
そのため、切削や曲げ、引き抜き、絞りなど多様な加工方法に対応できる汎用性の高い材料です。
特に、強度と成形性を両立させたい構造部材や工業部品の選定において重宝されています。
まず切削性について触れると、A5056は純アルミ系に比べると若干劣るものの、5xxx系合金の中では良好な部類に入ります。
Mg(マグネシウム)を主成分とするため、硬度がある程度あり、切削工具に対して適度な抵抗を示します。
そのため、刃物への負担が少なく、加工表面も比較的きれいに仕上がりやすい傾向があります。
ただし、被削性を高めるには以下のような対策が有効です。
・高速度鋼(HSS)や超硬工具を使用する
・刃先にコーティングを施したエンドミルやドリルを用いる
・適切な切削速度・送り速度を選定する
・切削油の使用により切りくず排出や冷却性を向上させる
また、A5056は加工硬化を起こしやすいため、連続加工ではチッピングや工具摩耗に注意が必要です。
特にタップ加工やネジ切りなど、細かい精度が求められる場合には、切削条件の最適化が品質を左右します。
一方で、A5056の塑性加工性(曲げや成形のしやすさ)は非常に高く、深絞りやロール成形、プレス加工といった冷間加工にも対応しやすい素材です。
特に、H32(1/4硬化)やO(焼なまし)状態では、曲げ半径を小さくしても割れにくく、複雑な形状にも成形しやすいという利点があります。
これにより、自動車のパネル部品や電機機器の筐体など、曲げや折り加工を多用する部品への展開が進んでいます。
また、引き抜き加工や管材成形にも適しているため、薄肉パイプや軽量構造部材などへの展開も可能です。
塑性変形時の割れやすさが少なく、成形後も比較的高い寸法精度を維持できる点が、現場の評価につながっています。
A5056は「高い成形性」「良好な加工表面」「中程度以上の切削性」という特性を持ち合わせており、特に複合的な加工工程を想定した製品開発では強みを発揮します。
軽量化と加工性、さらには強度や耐食性をバランス良く取り入れたい場合、A5056は非常に信頼性の高い選択肢となるでしょう。
A5056の耐食性と使用環境
海水・塩害への耐性
A5056は、アルミニウム合金の中でも特に高い耐食性を持つ材料として知られており、特に海水や塩害環境における耐性に優れている点が大きな特長です。
この性質により、A5056は海洋構造物や船舶部品、港湾施設、さらには沿岸地域の建築部材など、塩分や湿気の多い環境下での使用に広く採用されています。
その耐食性の要因となっているのが、主成分であるマグネシウム(Mg)の存在です。
A5056には約5.0〜6.0%のMgが含まれており、アルミとMgの組み合わせにより形成される「Al-Mg固溶体」は、自然な防食被膜を作りやすく、腐食の進行を抑える働きがあります。
特に、酸化アルミニウムの薄膜が空気中の酸素と反応して速やかに再生されることで、耐食性が持続するのです。
さらに、A5056には微量ながらクロム(Cr)や鉄(Fe)が含まれており、これが粒界腐食(intergranular corrosion)や応力腐食割れ(SCC)に対する抵抗性を高めています。
これは、同じAl-Mg系であってもクロムを含まないA5052などと比べて、局部腐食への耐性がやや高い点で差別化される部分です。
また、A5056は溶接後の耐食性の保持能力も高いという点で非常に優秀です。
一般的にアルミ合金は溶接により金属組織が変化し、腐食しやすい部分(HAZ:熱影響部)が形成されますが、A5056は非熱処理型合金であるためその影響が小さく、溶接後も耐食性を維持しやすいという特長があります。
実際にA5056は以下のような用途で活用されています。
・船体やマスト、船舶の手すりやハッチなどの海上構造材
・港湾の桟橋や浮桟橋、漁港施設などの海洋土木部材
・沿岸部の建築外装パネルやフェンス、照明柱
・防錆処理が難しい軽量トラックの荷台やフレーム部品
これらの分野では、定期的な防錆塗装が難しい環境も多く、材料そのものに耐食性が求められます。
A5056のような素材を選定することで、メンテナンス頻度の削減やライフサイクルコストの低減が実現可能となるため、経済的なメリットも大きくなります。
以上のことから、A5056は「耐塩害性」「長寿命」「構造強度」のすべてを満たす希少なアルミ素材のひとつといえ、海水や塩害環境に強い部材が必要な際の第一選択肢として非常に適しています。
化学薬品や工業環境に対する耐性
A5056は、海水や塩害に強いアルミ合金として知られていますが、それに加えて一定の化学薬品や厳しい工業環境にも耐える特性を持っています。
この耐性は、化学プラントや食品加工機器、産業設備の構造部材としての使用において、重要な選定要素となっています。
まず基本的に、アルミニウム自体が持つ耐食性は、自己再生型の酸化被膜(Al₂O₃)によって支えられています。
A5056も例外ではなく、大気中または水分に触れることでこの酸化被膜が形成され、さらに破れても自然に再生されるため、酸化環境において非常に安定しています。
A5056はこの酸化皮膜に加えて、マグネシウム(Mg)含有量が高く、耐アルカリ性が強いという特長を持ちます。
アルミニウム合金の多くは酸に対してやや弱い傾向がありますが、A5056はアルカリ性の環境に対して特に強く、例えば次のような条件下で優れた耐久性を発揮します。
・アルカリ洗浄剤(苛性ソーダなど)を使用する洗浄工程
・化学プラントにおけるアルカリ性薬液タンクの内壁
・食品工場などで用いられるアルカリ性殺菌水に触れる機器
一方で、強酸(塩酸や硫酸など)に対しては注意が必要です。
酸性環境では酸化被膜が容易に破壊され、腐食が急速に進行する可能性があるため、使用環境に応じて表面処理(アルマイト処理やフッ素コーティングなど)を施すことが一般的です。
また、工業環境においては、高湿度・粉塵・油分・可燃性ガスなど複合的な要因が腐食や劣化の要因となりますが、A5056は以下の点で適性があります。
・電食に強い:他金属と接触しても比較的腐食しにくい(ただし異種金属接触時は絶縁対策が推奨)
・応力腐食割れ(SCC)に強い:特にクロム添加の効果により、5xxx系の中でも高い耐性を示す
・表面仕上げ性が良い:アルマイト処理などの耐食性向上処理が容易で、外観も整いやすい
これらの特性により、A5056は次のような分野で使用されることが多いです。
・食品・医薬品製造ラインのパーツやフレーム
・アルカリ洗浄を繰り返す機器の外装
・化学薬品輸送用のタンクやパイプ
・工場の防錆性が求められる制御盤・筐体
総じて、A5056は「腐食に強いアルミ素材」として、単なる海洋環境のみならず、薬品や工業プロセスといった高度な要求環境でも有効です。
使用前には適切な表面処理や金属接触対策を施すことで、さらに信頼性の高い構造材料として活躍させることができます。
他のアルミ合金との比較
A5052との比較
A5056と並んで広く使用されているアルミニウム合金にA5052があります。
どちらもマグネシウムを主成分としたAl-Mg系合金であり、軽量かつ耐食性に優れた特徴を持っていますが、用途や性能にはいくつか明確な違いがあります。
この項では、両者の特性を比較しながら、適切な使い分けについて解説します。
①化学成分と機械的性質の違い A5052とA5056はどちらも非熱処理型合金で、焼き入れなどによる強化は行わず、加工硬化によって強度を高めるタイプです。
性質 | A5052 | A5056 |
---|---|---|
Mg含有量 | 約2.2~2.8% | 約5.0~6.0% |
クロム(Cr) | 含有 | 含有(やや多め) |
引張強さ | 約260~350 MPa | 約300~390 MPa |
耐食性 | 非常に良い | A5052以上に良い |
溶接性 | 非常に良い | 良好(ややひけ巣に注意) |
成形性 | 良好 | やや劣る(高Mgのため) |
Mg含有量の違いが性能の差を生んでおり、A5056のほうが強度と耐食性に優れる一方で、成形性ではA5052が有利です。
②成形性・加工性の比較
A5052は優れた塑性加工性を持っており、深絞りや曲げ、プレス成形に適しています。
そのため、複雑形状の加工品、例えば車両の外板や機械カバーなどに最適です。
一方、A5056はやや硬く、成形時に割れやすい傾向があるため、曲げ加工のR(曲率半径)に注意が必要です。
一方で、A5056は引張強さ・耐力が高いため、構造材としての信頼性が高いのが特徴です。
荷重がかかる箇所や衝撃にさらされる部品に適しています。
③溶接性・耐食性の違い
どちらも溶接性は良好ですが、A5056はMg量が多いため溶接時のひけ巣(収縮による空洞)が発生しやすい傾向があります。
そのため、溶接技術や条件の最適化がやや重要になります。
耐食性については、どちらも海水・塩害に強いですが、A5056のほうがクロム含有量も高く、より強固な酸化皮膜を形成するため、海洋構造物や港湾部材など過酷な腐食環境での使用にはA5056がより適していると言えます。
④用途に応じた選び方
A5052がおすすめの場面
・成形性重視(曲げ、絞り)
・コスト重視(A5056より安価)
・一般的な工業製品の筐体やカバー類
A5056がおすすめの場面
・耐食性・強度が最優先(特に海洋・沿岸用途)
・高強度を要求される構造材
・長期的な耐久性や信頼性が重視される設備部品
⑤価格と供給面の比較
価格面では、A5052のほうが安価かつ流通量が多いため、調達性にも優れています。
A5056は若干高価になる傾向がありますが、その分性能差に見合った価値があるため、用途と要求性能に応じて選定するのが理想です。
このように、A5052とA5056は一見似た特性を持つようでいて、強度・耐食性・加工性・価格といった点で明確な違いがあります。
最終製品の要求性能に合わせて、適材適所で選ぶことが製品の信頼性やコストパフォーマンスに直結します。
A6061との比較
A5056と並んで注目されるアルミ合金のひとつにA6061があります。
A6061はアルミニウム-マグネシウム-シリコン系の熱処理型合金であり、構造材としての高い性能を持つことから、航空機部品や機械部品、建築材などで広く使用されています。
非熱処理型のA5056とは性質が異なり、両者の選定には注意が必要です。
①組成と機械的性質の違い
特性 | A5056 | A6061 |
---|---|---|
系統 | Al-Mg系(非熱処理型) | Al-Mg-Si系(熱処理型) |
主な合金元素 | Mg(5.0~6.0%) | Mg(0.8~1.2%)、Si(0.4~0.8%) |
熱処理 | 不可(加工硬化のみ) | 可能(T6処理など) |
引張強さ | 約300~390 MPa | T6で約310~350 MPa |
耐食性 | 非常に優れる | 良好(A5056には劣る) |
A6061は熱処理(溶体化処理+人工時効)により高い強度が得られる一方で、A5056は熱処理に反応せず、主に加工硬化で強度を増します。
したがって、複雑な熱処理工程を省きたい場合や、成形加工性を重視したい場合にはA5056が有利です。
②耐食性の違い
A5056は耐塩害性・耐海水性に優れるため、海洋構造物や港湾設備などでよく採用されます。
一方、A6061も一般的な大気環境や湿潤環境では問題なく使用できますが、塩分を含む過酷な環境下ではやや腐食の進行が早い傾向があります。
したがって、以下のように用途によって適材適所が異なります。
A5056が優れる環境
・海岸部、海洋設備
・潮風にさらされる構造材
・化学薬品やアルカリ性洗浄液が頻繁に使用される設備
A6061が適する環境
・一般工業用途(建築構造、機械部品)
・加工後に熱処理可能な環境
・高剛性が求められる設計
③加工性と溶接性の比較
・切削性:A6061は熱処理材(T6など)で高い剛性を持ち、切削加工性に優れます。A5056はやや粘りがあり、工具への負荷が高くなる傾向があります。
・溶接性:どちらも溶接可能ですが、A5056はMg含有量が多く、ひけ巣(溶接部の空洞)に注意が必要。一方、A6061は溶接割れや熱影響部の軟化が起こる可能性があり、溶接後の強度低下が問題になることもあります。
④熱処理による利便性の違い
A6061は熱処理によって強度を自在にコントロールできることが大きな利点です。
T6処理を施すことで、引張強さ・耐力・剛性が高くなり、高精度・高強度の部品製作に適します。
一方、A5056は熱処理に対応していないため、強度の調整は加工硬化による冷間加工に依存します。
⑤コストと供給性
A6061は機械加工品や輸出製品などでの需要が高く、汎用性が高いため流通量も多く、価格も比較的安定しています。
A5056は用途がやや限定されるため、場合によっては調達が難しい場面もあるものの、耐食性が必須の場面では代替が効かない素材です。
総じて、A5056は「耐食性に優れた高強度素材」として、A6061は「熱処理による高強度と機械加工性を兼ね備えた汎用素材」として棲み分けされています。
設計上、どこに重点を置くかによって素材選定を行うことで、より高性能かつ効率的な部品設計が実現できます。
A2017との比較
A2017は、ジュラルミンの代表格であるAl-Cu系(アルミニウム-銅系)合金で、高強度・高剛性を持ちつつ、切削性にも優れる材料です。
一方のA5056は、Al-Mg系(アルミニウム-マグネシウム系)合金であり、優れた耐食性と中強度を持つ材料です。
A2017とA5056は、その特性と用途において明確な違いがあるため、加工現場での材料選定時に比較されることの多い組み合わせです。
①化学成分と強度比較
特性 | A2017 | A5056 |
---|---|---|
系統 | Al-Cu系(熱処理型) | Al-Mg系(非熱処理型) |
熱処理 | 可能(T3、T4など) | 不可 |
引張強さ | 約390~470 MPa(T4) | 約300~390 MPa |
耐力 | 約230~370 MPa | 約210~290 MPa |
耐食性 | やや劣る | 非常に良好 |
A2017は熱処理による硬化が可能なことから、高い機械的強度を発揮します。
特に、曲げや引張に強く、構造材に最適です。
一方、A5056は熱処理硬化はできないものの、加工硬化によって中程度の強度が得られます。
②耐食性の違い
耐食性の面では、A5056が圧倒的に優れています。
これは、マグネシウムが酸化皮膜の自己修復性を高め、さらにクロムの微量添加によって耐久性が向上しているためです。
A2017は銅を含むため、局部腐食(粒界腐食・孔食)を起こしやすく、海水や湿潤環境では腐食対策が必要になります。
そのため、以下のように用途が分かれます。
使用環境 | 推奨合金 |
---|---|
屋外や塩害地、湿潤環境 | A5056 |
室内・乾燥環境、または腐食対策済み構造 | A2017 |
③加工性・溶接性の比較
A2017
・切削性が非常に良好(被削材として優秀)
・冷間成形性はやや劣る(割れやすい)
・溶接性が悪い(特に融点の異なる母材と接合すると割れやすい)
A5056
・プレス、曲げ、伸ばし加工に適する
・溶接性は良好で、TIG・MIG溶接にも対応可能(ひずみに注意)
切削を中心とした加工が主であればA2017が、成形・溶接を含む複合加工ならA5056が適しています。
④用途の比較
用途 | A2017 | A5056 |
---|---|---|
航空機部品(内部構造) | ◎(高強度) | △(耐食性重視なら可) |
機械部品(軸受、構造材) | ◎ | ○ |
船舶・海洋機器 | △(腐食リスク) | ◎ |
自転車フレーム | ◎(軽量・高剛性) | ○(耐食性重視) |
アウトドア機器(釣具、キャンプ用品など) | △ | ◎ |
つまり、「強度」重視ならA2017、「耐久性・耐食性」重視ならA5056という選び方が基本です。
⑤表面処理と外観性
A2017は陽極酸化処理や塗装に対応可能ですが、銅成分による処理ムラが出やすいため、装飾用途には向きません。
一方、A5056は陽極酸化も可能で、外観はそこそこ良好ですが、アルミ合金の中では表面仕上がりがやや粗い部類です。
装飾性を求めるのであれば、A6063やA1050といった陽極酸化適性の高い合金が適しています。
⑥コスト・調達性
A2017は強度に優れることから特殊部品向けに流通しており、やや高価です。
A5056は汎用性が高く、比較的入手しやすい材料です。
加工内容やロット数によって価格が大きく変動するため、コスト面ではA5056が有利といえるでしょう。
A2017とA5056は、「構造材としての高強度」か「実用材としての高耐食性」かという設計思想の違いによって明確に使い分けられる材料です。
特に、腐食環境での使用や溶接を伴う製品にはA5056が優位となります。
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