SPCCとは?特徴・用途・加工性・他材料との違いを徹底解説
本日は材料解説シリーズ「SPCC編」です!
弊社では板金加工時に使用する材料でもあるSPCCですが、他の材料とはどう違うのか?
解説していきたいと思います!是非ご覧ください♪

SPCCとは
SPCCとは、「Steel Plate Cold Commercial」の略称で、日本産業規格(JIS)において規定されている冷間圧延鋼板(Cold Rolled Steel Sheets and Coils)の一種です。
JIS G 3141という規格で定められており、主に一般用途向けに使われる鋼板として広く流通しています。
特に精度の高い板厚と滑らかな表面性状を有していることから、外観が求められる製品や、後工程で塗装やメッキ処理を施す前提の部品に多く利用されています。
「SPCC」は材料記号の一つで、以下のように分類されています。
SP:Steel Plate(鋼板)
C:Cold(冷間圧延)
C:Commercial(一般用途向け)
このように「SPCC」という記号は、冷間圧延された商業用の鋼板であることを表しています。
なお、SPCCは比較的安価で入手しやすく、また加工性に優れているため、家電、自動車、建材、事務機器など多様な分野で採用されています。
JIS G 3141には、SPCCのほかに用途や品質の違いによってSPCD(Drawing用途)、SPCE(Deep Drawing用途)などの等級が定められています。
これらは成形性や引張性が異なり、使用用途に応じて選定されます。
たとえば、SPCEは深絞り加工に適しており、複雑な形状に成形する必要がある部品に使われます。
また、SPCCは基本的に表面処理を施していない「黒皮」状態で出荷されますが、必要に応じてリン酸塩処理、亜鉛メッキ(SECC)などの処理を施すことで、耐食性や接着性を向上させることも可能です。
これにより、使用環境や外観品質に合わせた幅広い対応が可能になります。
さらに、冷間圧延という工程により、熱間圧延材(SPHCなど)と比べて寸法精度が高く、表面も滑らかで美しい仕上がりになります。
そのため、外観品質や薄板精度が求められる用途にはSPCCが選ばれやすいのです。
まとめると、SPCCはコストと加工性、仕上がりの美しさのバランスに優れた鋼材であり、JISによって明確に品質が保証されていることから、ものづくりの現場で非常に汎用性の高い材料として位置付けられています。
冷間圧延とは?製造工程の基本
SPCCは「冷間圧延鋼板(Cold Rolled Steel Sheet)」に分類される材料です。
その名のとおり、冷間圧延という工程を経て製造されますが、この「冷間圧延」とは何か、そしてどのような特徴やメリットがあるのかを詳しく解説します。
冷間圧延とは?
冷間圧延(cold rolling)とは、熱間圧延後に冷却された鋼板を常温状態で再び圧延加工する工程のことです。
圧延とは、回転するローラーの間に材料を通して薄く伸ばす加工法で、冷間圧延では常温で行うことによって、寸法精度の高い仕上がりと美しい表面が得られます。
この工程では、材料に強い塑性変形を与えるため、硬化(加工硬化)が進み、引張強度が増す一方で、延性は若干低下します。
そのため、加工しやすさや絞り加工などが必要な場合は、適切な焼鈍(アニーリング)処理を挟んで再結晶させ、加工性を戻すこともあります。
冷間圧延鋼板(SPCC)ができるまでの製造工程
SPCCの一般的な製造フローは以下のようになります。
・熱間圧延(SPHCなど)の製造
まず、鉄鉱石やスクラップから溶解・精錬された鋼をスラブ(厚い板状)にし、それを高温(約1000℃前後)で圧延してSPHCなどの熱間圧延鋼板がつくられます。
・酸洗(ピクルス処理)
熱間圧延された鋼板には酸化スケール(黒皮)が付着しているため、これを塩酸や硫酸などで除去する酸洗処理を施します。
これによって表面が清浄になり、後工程の圧延性が向上します。
・冷間圧延
酸洗された鋼板を常温で再圧延します。
この工程により、板厚がさらに薄くなり、寸法精度と表面の滑らかさが高まります。
・焼鈍(アニーリング)
圧延によって硬くなった鋼板を加熱処理して軟化させ、加工性を改善します。
連続焼鈍(C.A.P.L.)ラインや箱型焼鈍炉などで行われます。
・仕上圧延(スキンパス)
焼鈍後の鋼板を軽く圧延することで、表面の平滑化や寸法安定性を確保します。
また、ルーバー模様などを付けることもあります。
・切断・検査・出荷
指定サイズに切断された後、表面検査や寸法検査を経て、コイルまたは板材として出荷されます。
冷間圧延の利点
冷間圧延によって得られる主な利点は以下のとおりです。 ・寸法精度が高い(板厚のばらつきが少ない)
・表面が滑らかで美しい(塗装やメッキに適する)
・高強度化が可能(加工硬化による)
・機械加工や打ち抜き加工に適する材料性
一方で、加工硬化により割れやすくなるため、用途によっては後工程の焼鈍処理や深絞り用の等級(SPCD、SPCE)の選定が必要です。
冷間圧延は、鋼材に高い付加価値を与える重要なプロセスであり、SPCCの品質や用途を支える基盤でもあります。
次回は、この冷間圧延によって得られるSPCCの特性とメリットに焦点を当てて解説していきます。
SPCCの特性とメリット
機械的性質と材料スペック
SPCCは、JIS G 3141で規定された冷間圧延鋼板の中でも最も一般的な鋼材であり、広く工業製品に使用されています。
その理由の一つは、機械的性質と寸法精度のバランスが非常に優れていることです。
この項目では、SPCCの代表的な機械的性質や物理的特性、寸法精度などについて詳しく解説します。
機械的性質(代表値)
SPCCの機械的性質は、製造条件や焼鈍の有無によって変化する場合がありますが、以下のような代表的な値がよく示されます。
項目 | 代表値 |
---|---|
引張強さ(TS) | 270〜410 MPa |
降伏点(YP) | 120〜270 MPa |
伸び(El) | 28〜40%(板厚による) |
硬さ(ビッカース) | HV 80〜130程度(条件により変動) |
SPCCは、成形加工が容易なレベルの強度と、十分な延性(伸び)を備えており、曲げ加工・せん断加工・打ち抜き加工など幅広い加工に対応できます。
ただし、成形性をより重視する場合には、SPCDやSPCEといった等級の使用が推奨されます。
寸法規格と公差
JIS G 3141では、SPCCの寸法と許容差も規定されています。
以下は板厚とその公差の一例です(冷間圧延鋼板の場合)。
公称板厚 (mm) | 許容差(±mm) |
---|---|
0.25~0.40 | ±0.03 |
0.40~0.60 | ±0.04 |
0.60~1.00 | ±0.05 |
1.00~1.60 | ±0.06 |
このように、非常に高い寸法精度を持つことが冷間圧延鋼板、特にSPCCの強みのひとつです。
製品設計上、正確な板厚や寸法を要求される電子機器筐体、自動車部品などで重宝される理由です。
化学成分
SPCCの化学成分は、炭素鋼の中でも低炭素鋼に属し、比較的炭素やマンガンの含有量が少ないのが特徴です。
以下は一例です(保証値ではなく代表値)。
元素 | 含有量(代表値) |
---|---|
C | 0.10%以下 |
Mn | 0.50%以下 |
P | 0.035%以下 |
S | 0.035%以下 |
これにより、溶接性や加工性が高く、切断や折り曲げなどの機械加工にも適した材料特性を持ちます。
特に、スポット溶接やアーク溶接との相性が良好です。
焼鈍の影響
SPCCは冷間圧延によって加工硬化が進むため、機械的性質が硬くなります。
このままでは深絞りや曲げに対して割れが生じる恐れがあるため、多くの場合、焼鈍処理(アニーリング)を施して延性を回復させ、成形性を高めます。
このように、SPCCは強度・延性・寸法精度のバランスに優れ、機械加工やプレス加工など多様な製造工程に対応できる素材です。
その特性は、コストパフォーマンスの高さとあわせて、製造現場での高い信頼につながっています。
焼鈍されたSPCCは「SPCC-SD(Skin Pass仕上)」などの表記がされることもあり、用途に応じた選定が可能です。
逆に、硬さやばね性を重視する用途では焼鈍を省略し、加工硬化を維持したまま使用されるケースもあります。
加工性(曲げ・溶接・プレスなど)
SPCCは、加工性に優れた汎用鋼板として多くの産業で重宝されています。
板厚のばらつきが小さく、表面状態も良好なため、曲げ加工、プレス加工、溶接加工といった様々な二次加工に対応しやすい特徴を持っています。
本項目では、加工現場で特によく使われる加工方法ごとにSPCCの特徴を解説します。
曲げ加工
SPCCは、冷間圧延により強度が高められていますが、同時に延性も確保されており、板金部品の曲げ加工に非常に適しています。
特に焼鈍処理(アニーリング)が施されたSPCCは、加工硬化が除去されており、90°以上の曲げやヘミング加工にも対応できます。
曲げ加工時の注意点:
・小Rで曲げる場合は板厚の2倍以上の曲げ内Rが推奨されます(割れ防止のため)
・繰り返し曲げには加工硬化の影響を受けやすいため、必要に応じて材料グレード(SPCDなど)を選定する
・曲げラインに対して圧延方向を意識することで、ひび割れや折れのリスクを低減できます
プレス加工
SPCCは、精密な金型を使用することで高い寸法精度を保ったプレス加工が可能です。
打ち抜き、成形、曲げ、絞りといったあらゆるプレス加工に対応しやすい特性があります。
打ち抜き加工(せん断):
シャープなせん断面が得られやすく、バリも最小限で抑えられます。
連続打ち抜きによる金属疲労の問題も比較的少なく、金型の耐久性も高くなりやすいです。
深絞り加工:
標準のSPCCでは絞り深さに限界があるため、深絞りには専用グレード(SPCEなど)の使用が望ましいですが、浅絞りであればSPCCでも良好な加工結果が得られます。
溶接性
SPCCは低炭素鋼であり、炭素含有量が0.10%以下と少ないため、非常に溶接性に優れています。
アーク溶接、スポット溶接、TIG溶接、CO₂溶接など様々な溶接手法に対応可能です。
代表的な溶接方法と特徴:
スポット溶接:
板厚が0.3〜1.6mm程度の範囲であれば、極めて良好な溶接性を示し、自動車の内装部品などに多用されます。
アーク溶接:
炭素量が低く、ひずみや割れの発生リスクが少ないため、初心者にも扱いやすい。
TIG溶接・MIG溶接:
より美しい仕上がりを求める場合に有効で、家具や内装用の金属部品で採用されます。
他の加工との組み合わせ
SPCCはその加工性の高さから、複合加工(曲げ+溶接、打ち抜き+絞りなど)との相性も抜群です。
例えば、電子機器のシャーシ部品では「打ち抜き → 曲げ → スポット溶接 → 塗装」の流れで多く使われます。
加工中の寸法変化や歪みも比較的小さく、安定した品質を保ちやすいのが利点です。
加工性に関するまとめ
加工種別 | 適性 | 補足 |
---|---|---|
曲げ加工 | ◎(Rに注意) | 焼鈍品が理想 |
打ち抜き | ◎ | せん断面が綺麗 |
絞り加工 | △〜○(深さ次第) | 深絞りにはSPCE推奨 |
溶接加工 | ◎ | あらゆる溶接に対応可 |
このように、SPCCは加工現場において非常に扱いやすい材料であり、安定性、信頼性、コストパフォーマンスの面で優れた選択肢と言えます。
次回は、これらの加工性がどのような製品や産業分野に活用されているか(3章)を詳しく見ていきましょう。
SPCCの用途
自動車・電機業界での用途
SPCCは、その加工性・溶接性・コストのバランスに優れていることから、さまざまな製造業で使用されていますが、特に自動車業界と電機・電子機器業界においては不可欠な素材となっています。
ここでは、具体的な用途や要求性能、他材料との使い分けについて詳しく解説します。
自動車業界でのSPCCの用途
自動車は大量生産される製品であるため、使用する材料には「加工性」「コスト」「安定供給」が求められます。
SPCCはこれらの要件をバランスよく満たすため、主に内装部品や構造部品の一部に多用されています。
具体的な採用例:
・インストルメントパネルの骨格部品
・ヒーターユニットやエアコンユニットのカバー
・ブラケット類(配線固定、配管保持)
・エンジンルーム内の小型補助部品(非高温部)
これらの部品は形状が比較的シンプルでありながら、一定の強度と加工性が求められるため、SPCCのような冷間圧延鋼板が非常に適しています。
また、電着塗装や粉体塗装などの表面処理との相性もよく、防錆性を高めたうえで製品に組み込まれます。
電機・電子業界でのSPCCの用途
電機・電子分野でも、SPCCは多用途で使用されています。
特に筐体(エンクロージャー)部品や内部シャーシなど、板金で構成される製品の主要材料として使われています。
主な使用例:
・家電製品の筐体(冷蔵庫・洗濯機・電子レンジなど)
・パソコン、プリンター、サーバーのシャーシ
・電源ユニットケース、放熱プレート
・監視カメラ・センサー筐体など
これらは主に薄板(t=0.4~1.6mm)のSPCCが使用される領域であり、せん断加工・曲げ・スポット溶接などを組み合わせて筐体を形成します。
電子機器では、寸法精度と表面品質が特に重視されるため、冷間圧延による滑らかな表面と均一な板厚は大きなメリットです。
コストと材料選定の視点
SPCCが多くの分野で使われる理由のひとつが材料コストの安さです。
高強度・耐食性を求める場合にはSUS(ステンレス)や高張力鋼板(ハイテン)を使うこともありますが、コストや加工性とのバランスで、SPCCは非常に経済的な選択肢となります。
SPCCと他材料の使い分け例(自動車業界):
要求性能 | 推奨材料 | SPCCの位置づけ |
---|---|---|
耐食性が必要 | SGCC、SUS304など | SPCCは塗装前提で使用 |
高強度が必要 | ハイテン材 | 非構造部にSPCCが有効 |
精密な成形性が必要 | SPCEなど | SPCCは浅絞り・曲げに最適 |
このように、「そこまで高い性能は不要だが、安定した加工性と供給性が求められる」用途ではSPCCが非常に高い評価を受けています。
表面処理との組み合わせ
自動車・電機業界では、SPCCを使用する際に防錆処理(表面処理)を施すことが一般的です。
代表的な処理方法は以下の通りです。
・電着塗装(カチオン塗装): 密着性が高く、量産に適した塗装方法。
・粉体塗装: 環境負荷が低く、塗膜が厚くて耐久性もある。
・メッキ処理(ニッケル、亜鉛など): 耐食性・導電性が必要な場合に使用。
これらの処理とSPCCの相性の良さが、最終製品の品質を支えているともいえるでしょう。
まとめ
自動車や電機業界におけるSPCCの用途は非常に広範です。
高機能素材が台頭する現代でも、「加工性」「コスト」「供給の安定性」を重視する分野において、SPCCの存在価値は衰えることがありません。
製品設計者・開発者にとっては、最初に検討すべき基本材料の一つと言えるでしょう。
その他の産業分野での使用例
SPCCは、自動車や電機業界に限らず、さまざまな産業分野で幅広く利用されている材料です。
冷間圧延鋼板という特徴から、「軽量・加工しやすい・安価・寸法精度が高い」などの利点を活かし、機械部品や建築資材、家具、文具製品、什器など多岐にわたる製品で使われています。
この項目では、各産業分野における代表的な用途や、採用される理由を詳しく解説します。
産業機械・装置分野での活用
製造現場や工場では、SPCCは装置のフレームやパネル、制御盤の筐体などに利用されています。
精密板金加工との相性が良いため、レーザー加工→曲げ→溶接→塗装といった一連の工程で、SPCCを材料にしたカスタム部品が短納期で製作されることが多いです。
主な使用例:
・制御盤・分電盤の筐体
・生産ライン用カバー、メンテナンス扉
・検査装置・測定装置の外装
・小型機器の支持ブラケット
耐環境性が必要な場合は、塗装やメッキを併用することで、腐食対策も容易に行えます。
また、機械構造としての十分な剛性を持ちつつ、溶接や穴加工がしやすい点も好まれています。
建築・什器・内装分野での使用
建築分野においても、SPCCは目立たない部分で数多く使われています。
特に内装材や什器部品、軽量鉄骨の部材など、非構造でデザイン性や加工性が重視される箇所に適しています。
使用例:
・スチール製ドアの枠部材
・空調ダクトの支持金具
・棚板、金属製収納ラック
・住宅設備機器の裏板や固定金具
建築・内装に使われる場合は、見た目の仕上がりが重視されるため、SPCCに塗装や化粧板処理を施すケースが一般的です。
また、エッジの処理や曲げ精度も高いことから、安全性や見た目の品質にも貢献します。
家具・什器・インテリア製品への応用
SPCCは家具やインテリア分野にも進出しています。
特にモダンな印象を与えるスチール素材は、オフィス家具、店舗什器、照明器具などのデザイン要素としても高く評価されています。
使用例:
・スチール製の椅子やデスクフレーム
・店舗用ディスプレイ什器、陳列棚
・照明器具のボディ
・テレビスタンドや壁掛け金具
SPCCは均一な表面状態と高い加工精度を持つため、曲げや溶接による立体成形が容易であり、シンプルで美しい仕上がりを実現可能です。
表面には粉体塗装やクロムメッキを施し、質感と耐久性を両立しています。
雑貨・文具・日用品への利用
私たちの身の回りの日用品にも、実はSPCCは多数使われています。
特に、小型で大量生産が前提の製品には、SPCCのコストパフォーマンスと加工性が活かされています。
例:
・スチール製文房具(ホチキス、ファイルボックス)
・家庭用工具の本体部品(ケース、取手金具)
・キッチン小物や棚板
・ガレージ・DIY用品(棚受け、金具)
これらの製品では、耐久性と形状安定性を兼ね備えた材料が求められ、なおかつ安価である必要があります。
SPCCはまさにその条件にマッチする材料であり、量産体制にも適しています。
今後の展開と可能性
近年では、SPCCをベースにした機能性素材の開発も進められています。
たとえば、抗菌コーティングを施した鋼板や、軽量化に貢献する薄板加工技術との組み合わせなど、従来の「安価な構造材」としての役割を超えて、新たな分野への適用も模索されています。
また、カーボンニュートラルの観点から、リサイクル性の高さも評価されており、サステナブル素材としての需要も今後拡大が予想されます。
まとめ
このようにSPCCは、特定の業界にとどまらず、「汎用性」「加工性」「コスト性能」の高さを活かして、さまざまな製品・産業で活用されています。
私たちの生活のあらゆる場面で、実はSPCCがひっそりと重要な役割を担っているのです。
SPCCの加工性と注意点
腐食対策・表面処理
SPCC(冷間圧延鋼板)は、加工性とコストパフォーマンスに優れた材料ですが、「防錆性(耐食性)」という点においては十分とは言えません。
表面に酸化被膜などの防錆層がないため、大気中の湿気や水分、塩分などにさらされると比較的短期間で赤錆が発生します。
そのため、SPCCを製品として使用するには「適切な表面処理による腐食対策」が不可欠です。
この項目では、代表的な表面処理の種類とそれぞれの特徴について解説します。
1. 電着塗装(カチオン電着)
電着塗装は、SPCC部品の表面に電気化学的に均一な塗膜を形成する塗装方法であり、最も一般的に使われる表面処理の一つです。
特に自動車部品や家電部品に多用されています。
特徴:
・隅々まで塗膜が行き渡る(複雑形状にも対応)
・塗膜は薄くても密着性と防錆性に優れる
・焼き付け工程により耐久性が高い
カチオン電着は環境規制にも対応しており、水溶性塗料の使用によってVOC排出量を抑えられる点も評価されています。
2. 粉体塗装(パウダーコーティング)
粉体塗装は、粉状の樹脂塗料を静電気で吸着させて焼き付けることで塗膜を形成する方法です。
厚膜で高耐久な塗装が得られるため、屋外部品や産業機械の外装などに採用されています。
特徴:
・塗膜が厚く、耐衝撃性・耐候性に優れる
・溶剤を使用せず環境負荷が低い
・表面に高級感のある仕上がりが可能(艶あり・艶消しなど)
SPCCに粉体塗装を施すことで、コストを抑えつつ高品質な外観を持つ製品を実現できます。
3. メッキ処理(亜鉛・ニッケル・クロム)
メッキは金属皮膜による表面保護手段であり、耐食性や導電性、装飾性の付与など、目的に応じて使い分けられます。
主なメッキ種類と特徴:
メッキ種 | 特徴 | 主な用途 |
---|---|---|
亜鉛メッキ | 錆に強い、コストが安い | 建材・電機筐体・配電盤 |
ニッケルメッキ | 光沢があり、耐摩耗性あり | 電子部品・工具・装飾品 |
クロムメッキ | 高級感と耐食性が両立 | 家具・水回り製品・自転車部品 |
SPCCにメッキを施すことで、「コストを抑えながらも高機能・美観を持つ部品」を製造することが可能となります。
4. 防錆油・リン酸塩処理
比較的簡易的な防錆処理として、防錆油の塗布やリン酸塩処理も利用されます。
これらは長期保存用または後工程で塗装やメッキを前提とする一時的な保護処理として行われます。
・防錆油塗布: 一時的な錆防止に有効。出荷前や輸送時に使用。
・リン酸塩処理: 塗装下地として密着性と耐食性を向上。表面にザラつきが出るため塗装向き。
これらは特に工場の中間工程での対策や、在庫部材の保存の際に重宝されます。
5. 複合処理の重要性
近年では、「1種類の処理だけでは不十分」とされるケースも増えており、複合処理(例:リン酸塩処理+電着塗装など)が一般的になってきました。
これは、使用環境が厳しい場合(屋外・多湿・高温多湿など)には単一処理では十分な耐久性が得られないためです。
表面処理を選定する際のポイント
SPCCの表面処理を検討する際には、以下のような観点が重要になります。
・使用環境(屋内・屋外・湿度・塩分濃度)
・求められる耐久性(寿命・摩耗・腐食)
・外観品質(色・光沢・手触り)
・後工程との相性(接着・塗装など)
・コストと生産効率
これらを総合的に判断し、製品用途に適した処理方法を選択することが、SPCCを活かした製品づくりには欠かせません。
まとめ
SPCCは錆びやすいという弱点を持つ一方で、適切な表面処理を施せば、高性能かつ高品質な部材として活躍できる材料です。
表面処理の技術は年々進化しており、今後もSPCCの活用可能性をさらに広げていくことが期待されています。
加工時の取り扱い注意点
SPCC(冷間圧延鋼板)は、形状精度が高く、塑性加工性にも優れた素材として多くの工業製品に使われていますが、その特性を活かすには加工時の取り扱いにおける注意点をしっかりと理解しておく必要があります。
特に「表面性状の維持」「加工硬化の回避」「割れ・バリの防止」などが重要で、これらに対する対策を行うことで製品不良のリスクを大幅に低減できます。
1. 表面傷への注意
SPCCは冷間圧延によって仕上げられており、表面が非常に滑らかで美しい光沢を持っています。
このため、軽微な擦り傷や打痕でも外観に大きく影響しやすく、製品品質に直結します。
注意点:
・加工中は素手での接触や工具との不意の接触を避ける。
・保管中は表面保護フィルムを貼る、または不織布などで梱包。
・コンベアや治具もゴム・樹脂で緩衝対策を行う。
表面品質が問われる製品では、加工工程よりも前の取り扱い段階で傷がつくケースも多いため、搬送・保管にも細心の注意が求められます。
2. 加工硬化と割れの抑制
冷間圧延鋼板であるSPCCは、加工硬化しやすい材質でもあります。
曲げ加工やプレス加工などを繰り返すと金属組織が硬くなり、脆くなった部分に割れが生じやすくなります。
対策例:
・曲げ加工時には適切なR(曲げ半径)を設ける(板厚の1.5倍以上が目安)。
・順送プレスなど連続加工の場合は潤滑剤の使用で摩擦を低減。
・中間焼鈍(アニーリング)で加工硬化を解消する。
設計段階で曲げ半径やパンチ・ダイの形状に配慮し、応力集中を回避する設計を心がけることも重要です。
3. バリ・かえりの発生と対策
打ち抜き加工やせん断加工では、SPCC特有のせん断面のバリ(かえり)が問題になることがあります。
特に、精密部品や手が触れる製品では、バリ取りが品質と安全に直結します。
主な対策:
・高精度な刃物・金型の使用によりバリの発生を最小限に。
・抜き方向を制御してバリの方向を設計通りに統一する。
・加工後のバリ取り工程(バレル研磨・ショットブラストなど)を取り入れる。
また、板厚が薄くなるほどバリが顕著に出やすくなるため、金型設計時のクリアランス設定も最適化が必要です。
4. 温度・湿度管理による防錆
SPCCは表面に防錆皮膜がないため、加工前後の環境条件による錆の発生が問題になる場合があります。
特に梅雨時期や結露が発生しやすい環境では、未処理のSPCCはすぐに赤錆を発生させます。
管理ポイント:
・加工前後の保管は湿度60%以下・室温管理が理想。
・冷暖房機器や出入り口付近での結露対策を講じる。
・加工完了後はすぐに防錆油や表面処理を施す。
また、作業者の汗や指紋が腐食の引き金になることもあるため、手袋の着用やパーツクリーナーでの脱脂も有効です。
5. 加工設備の定期点検と調整
SPCCの品質は加工設備の状態にも左右されます。
例えば、刃の摩耗やガイドのズレによって曲げ位置がばらついたり、寸法精度が落ちたりすることがあります。
特に薄板では微小なずれが最終製品に大きな影響を及ぼします。
対応策:
・金型・刃物の摩耗状態を定期チェックし、早期交換。
・油圧・空圧の圧力管理や送り装置の精度調整を定期的に実施。
・試作時には測定器での確認(ノギス・マイクロメータなど)を必ず行う。
このように、材料特性に合わせた機械調整・メンテナンスが、品質トラブルを未然に防ぐ鍵となります。
まとめ
SPCCは扱いやすく安価な材料である一方、表面品質・防錆性・加工硬化などに敏感な素材でもあります。
そのため、設計者・加工担当者・品質管理者が連携し、それぞれの特性を理解した上で適切に取り扱うことが、製品品質の安定につながります。
リサイクルと環境への配慮
SPCC(冷間圧延鋼板)は、建材・自動車部品・電気製品などに広く利用される一方で、持続可能な社会の実現に向けた環境配慮の視点でも注目されています。
鉄鋼はリサイクル性が非常に高い素材であり、適切な回収・再利用プロセスを通じて、資源の有効活用と環境負荷の低減に大きく貢献しています。
1. 鉄鋼材料としての高いリサイクル率
SPCCは鉄を主成分とする材料であり、鉄鋼業界においてリサイクルが極めて盛んな素材です。
国内外の鉄鋼産業では、製品製造時に発生するスクラップを再溶解して再利用する「循環型生産体制」が確立されています。
・鉄鋼全体のリサイクル率は90%以上とされ、産業界でもトップクラスの水準です。
・SPCCの加工工程で発生した切粉・端材・スクラップはすべて再資源化が可能。
・製品寿命が尽きた後も、分別さえされていれば再び鋼材として生まれ変わることができます。
このように、SPCCを含む鉄鋼材料は「持続可能な資源」として高いポテンシャルを持っています。
2. 環境負荷の低減とCO₂削減への貢献
鉄鋼のリサイクルは、新規に鉄鉱石から製鋼する場合に比べてエネルギー消費とCO₂排出が大幅に少ないという利点があります。
・電気炉を使ったスクラップ溶解では、高炉製鉄の約1/4のエネルギーで製造可能。
・再生材を使用することで、鉄鋼1トンあたりのCO₂排出量を数百kg単位で削減できる。
こうした特性から、SPCCを積極的にリサイクル活用することは、企業にとってもSDGs(持続可能な開発目標)やカーボンニュートラルへの対応策となり、環境配慮型製造業の構築に貢献します。
3. 加工・処理時の環境配慮事項
SPCC自体はリサイクル可能な素材ですが、その加工・処理工程で使用される潤滑油・防錆剤・表面処理液などが環境負荷要因となるケースがあります。
たとえば、洗浄工程の廃液、油分、粉塵などが適切に管理されていないと、排水規制や大気汚染防止法の違反につながることもあります。
具体的対策:
・水溶性潤滑剤や環境対応型防錆剤の導入。
・中和処理装置・フィルター・排気集塵設備の設置。
・廃液・廃油の産業廃棄物としての適正処理。
環境に優しい加工を実現するには、単に素材がリサイクル可能であるだけでなく、加工プロセス全体のグリーン化が求められるのです。
4. 環境ラベル・グリーン調達との関連性
大手製造業では、環境への配慮が求められる中で、「グリーン調達基準」や「エコリーフ環境ラベル」などの環境評価制度が導入されています。
これらは、製品に使われる材料や部品がどれだけ環境負荷を低減しているかを評価する仕組みであり、SPCCのようなリサイクル性に優れた材料は調達上の評価ポイントになります。
注目されるポイント:
・材料が再生可能かつ長寿命であること。
・加工工程での環境マネジメント体制の整備。
・環境認証(ISO14001など)を取得している供給元からの購入。
そのため、SPCCを使用する企業は、単に製品を作るだけでなく、環境情報の開示やトレーサビリティの確保も重要な責務になってきています。
まとめ
SPCCは、機械的特性や加工性に優れた材料であると同時に、高いリサイクル性と環境負荷低減効果を持つ素材でもあります。
製造現場では、こうした利点を十分に活かすことで、経済性と環境性を両立させた持続可能な生産体制が実現可能です。
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