タフピッチ銅とは?その特性と用途を徹底解説
やってまいりました!!材料解説シリーズ!!!
本日はタフピッチ銅について解説していきます!それではどうぞ。

タフピッチ銅とは
タフピッチ銅(Tough Pitch Copper)は、JIS規格で「C1100」として規定されている工業用の純銅材料です。
タフピッチ銅(Tough Pitch Copper)は、JIS規格でC1100などに分類される純銅系の材料であり、極めて高い電気伝導率と熱伝導率を持つ金属です。
「タフピッチ」という名称は、銅の製錬工程で酸素を適度に残す製法に由来し、この酸素が銅中に微量含まれることが特長です。
一般的に、タフピッチ銅は99.96%以上の純度を持ち、酸素は0.02〜0.04%程度含まれています。
これにより、導電性を最大限に引き出す一方で、製造コストを抑えることが可能となっています。
タフピッチ銅の電気伝導率は約100% IACS(International Annealed Copper Standard)に達し、これは標準的な純銅の基準とされています。
この性能は、電気・電子産業において不可欠であり、特に送電ケーブル、モーターの巻線、プリント基板の配線などで使用されています。
また、熱伝導率にも優れ、ヒートシンクや放熱部材などにも利用されることがあります。
しかし、タフピッチ銅は高温下で水素に曝されると「水素脆化」を起こすリスクがあるため、溶接や高温プロセスには制限があります。
そのため、用途によっては無酸素銅などの代替材料が必要になるケースもあります。
それでも、加工性とコストパフォーマンスのバランスに優れ、広範な産業分野で重宝されています。
タフピッチ銅の化学成分と特性
タフピッチ銅の主成分は銅(Cu)で、その含有率は99.96%以上と極めて高純度です。
特徴的なのは、微量の酸素(O)を含んでいる点で、その含有量はおよそ0.02〜0.04%です。
この酸素は、Cu2O(酸化第二銅)の形で組織内に微細に分布しており、電気伝導率を大きく損なうことはありません。
むしろ、鋳造時の脱酸を効率良く行えるため、均一な組織が得られるという利点もあります。
機械的特性としては、引張強さ200〜250MPa程度、伸び30%以上、硬さHB40〜50程度で、非常に延性に富んだ材料です。
これにより、冷間加工や板金加工にも適しています。
ただし、硬化しやすいため、必要に応じて焼きなまし処理を施すことが一般的です。
熱伝導率も高く、約390 W/m・K前後に達します。
これはアルミニウムの2倍近くに相当し、冷却機能を求められる部品にとって大きなアドバンテージとなります。
また、耐腐食性にも優れており、大気中や多くの化学環境において安定した性能を維持できます。
これらの特性により、電子機器、電力機器、熱交換器など、多岐にわたる分野で活躍しています。
用途と応用分野
電気・電子部品への利用
タフピッチ銅は、電気伝導率が非常に高いため、電気・電子機器における導体材料として最も多用されている素材のひとつです。
たとえば、電力の伝送を担う送電線や配電線、トランスの巻線、モーターのコイル、電車の架線、スイッチギアのブスバーなど、電気エネルギーの損失を極力抑える必要がある用途でその力を発揮します。
電子部品の分野でも、プリント基板(PCB)の銅箔、リードフレーム、コネクタ端子、ICチップの配線材料などに利用されます。
微細加工が求められるこれらの用途では、タフピッチ銅の延性や成形性も大きなメリットとなります。
はんだ付け性にも優れており、組立工程でも扱いやすい材料です。
また、タフピッチ銅は経済性にも優れ、同等の電気伝導性を持つ他の銅材(例:無酸素銅)に比べて安価です。
これにより、信頼性とコストのバランスが重要視される民生品から産業機器まで、幅広い分野で選ばれています。
ただし、水素脆化のリスクがあるため、溶接を伴う用途や真空環境では他の銅材への切り替えが必要です。
放熱・冷却部材としての役割
タフピッチ銅の熱伝導率は非常に高く、390〜400W/m・Kにも達します。
この数値は、放熱材として一般的なアルミニウム(約200〜230W/m・K)よりも大幅に高く、効率的に熱を移動させる能力があります。
そのため、熱拡散・冷却が必要な分野で広く活用されています。
代表的な用途には、半導体部品のヒートシンク、パワーモジュールのベースプレート、LED照明の放熱体、コンピュータのCPUクーラー、電気車のパワーコントロールユニット(PCU)などがあり、これらは高密度な発熱源から熱を効率良く逃がす必要があります。
タフピッチ銅を用いることで、安定した温度管理が可能となり、機器の長寿命化や性能維持に寄与します。
また、熱交換器や冷却配管など、伝熱効率が求められる設備にも用いられます。
銅は化学的安定性にも優れているため、腐食に強く、メンテナンス性の高い素材とされています。
ただし、放熱部品として用いる際には重量や価格が課題となる場合もあり、アルミとのハイブリッド設計や薄肉加工による軽量化の工夫も併せて行われます。
このように、タフピッチ銅は電気だけでなく熱の面でも高い性能を発揮し、電子機器の信頼性向上に欠かせない素材といえます。
他の銅材との比較
無酸素銅との比較
タフピッチ銅とよく比較される材料に、無酸素銅(OFC:Oxygen Free Copper)があります。
無酸素銅は、製造過程で酸素を極限まで除去した銅であり、その酸素含有率は0.001%以下と非常に低くなっています。
これにより、水素脆化を起こすリスクがほぼ無くなり、真空中での加熱処理や溶接、電子ビーム加工などにも適用可能です。
一方で、タフピッチ銅は0.02〜0.04%の酸素を含むため、水素が存在する環境下では組織内の酸化銅(Cu2O)が水素と反応して水蒸気を発生させ、内部から割れが生じる水素脆化のリスクがあります。
したがって、真空装置や溶接を多用する用途では無酸素銅の方が適しています。
ただし、無酸素銅は製造コストが高く、タフピッチ銅に比べて価格が割高になる傾向があります。
そのため、通常の大気中で使用する電線や配線材、ヒートシンクなど、特別な環境条件を必要としない場合は、コストパフォーマンスに優れるタフピッチ銅が広く採用されます。
性能面では、両者ともに電気伝導率はほぼ同等(100% IACS)であり、用途や設計要件に応じて選定されます。
つまり、タフピッチ銅と無酸素銅の選択は、加工環境と使用条件を見極めることが重要となります。
リン脱酸銅との比較
タフピッチ銅と比較されるもう一つの銅材料が「リン脱酸銅(Deoxidized Phosphorus Copper)」です。
JISではC1220などに分類されるこの材料は、酸素をリンで除去して製造されており、酸素含有量が極めて低いことが特長です。
これにより、水素脆化に強く、溶接性・ろう付け性に優れるという利点があります。
リン脱酸銅の電気伝導率は約85〜90% IACSと、タフピッチ銅(100% IACS)にはやや劣りますが、熱伝導性や加工性には優れたバランスを持っています。
また、リンが微量残留することで、還元性ガス中での加熱処理でも割れを起こしにくく、配管や熱交換器、屋外設備の継手など、ろう付けを伴う構造部材に広く利用されています。
対してタフピッチ銅は、リンを含まないため導電性には優れるものの、溶接・ろう付けには制限があります。
したがって、高い導電性が必要な電子機器や電線にはタフピッチ銅、熱交換器や配管構造にはリン脱酸銅が使い分けられる傾向があります。
コスト面では、リン脱酸銅は製造工程が若干複雑なものの、無酸素銅ほど高価ではなく、比較的安価に供給されるため、機械的な強度や溶接性を重視する構造材において重宝されています。
黄銅・青銅との使い分け
タフピッチ銅とよく比較される他の銅合金として、「黄銅(真鍮)」と「青銅(ブロンズ)」があります。
これらは純銅に他の元素を加えた合金であり、目的に応じた物性強化や加工性の向上が図られています。
黄銅(Brass)との使い分け
黄銅は主に銅と亜鉛の合金で、C2600(70:30黄銅)などが代表例です。
機械的強度が高く、プレス加工性や切削性に優れており、複雑な形状の部品やネジ、バルブなどの機械部品に広く使用されています。
また、美しい金色光沢を持つため、装飾用途や建築部材にも適しています。
一方で、黄銅の電気伝導率はタフピッチ銅の3割程度(約28〜35% IACS)と低いため、電気用途には不向きです。
したがって、導電性が最重要の用途(電線、コイル、基板配線)ではタフピッチ銅が選ばれます。
青銅(Bronze)との使い分け
青銅は一般に銅と錫(スズ)を主成分とする合金で、強度・耐摩耗性・耐食性に優れています。
C5191(りん青銅)などのりん青銅は、ばね性や疲労強度が必要な接点部品、スイッチ、コネクタに使用されます。
さらに、すべり軸受や歯車など機械的荷重がかかる部品にも使われます。
しかし、青銅も電気伝導性はタフピッチ銅に比べると大きく劣る(約15〜20% IACS)ため、電気信号の伝達効率が重視される配線材などには適しません。
まとめ
・タフピッチ銅:電気・熱伝導性が最優先される用途(配線・基板・ヒートシンク)
・黄銅:強度・加工性が重視される機械部品、装飾用途
・青銅:耐摩耗性・ばね性・耐食性が必要な接点部品や機構部品
このように、機能・導電性・耐久性・加工法の要件に応じて、各銅系材料を適切に使い分けることが、製品の性能や信頼性を左右します。
加工性と注意点
タフピッチ銅の加工方法
タフピッチ銅は高い延性と塑性を持つため、多様な加工方法に対応可能です。
代表的な加工方法としては、切削加工、曲げ加工、圧延加工、引抜加工などがあります。
冷間加工に適しており、加工硬化が進むため、必要に応じて焼きなまし処理を行いながら加工するのが一般的です。
切削加工では、刃物の摩耗が比較的少なく、加工面も良好に仕上がるため、精密部品の製造にも向いています。
ただし、加工中の熱の蓄積により、工具寿命が短くなることがあるため、切削条件や冷却方法の最適化が重要です。
また、溶接や高温熱処理前には、酸素含有量の影響で内部応力や割れが生じやすいため、加工計画には注意が必要です。
水素脆化とは
水素脆化とは、金属内部に侵入した水素が原因で材料が脆くなり、割れやすくなる現象を指します。
タフピッチ銅の場合、銅中に微量含まれる酸素がCu2Oとして存在しており、この酸化銅が水素と反応すると水蒸気が発生します。
この水蒸気が内部圧力となり、割れやすくなるのが水素脆化のメカニズムです。
この現象は特に高温環境下や溶接、熱処理などの加熱工程で発生しやすく、タフピッチ銅の使用上の大きな注意点となっています。
水素脆化による割れは突然発生することもあるため、使用環境の管理や加工条件の厳密な制御が求められます。
溶接や熱処理時の注意点
タフピッチ銅を溶接や熱処理する際には、以下の点に注意が必要です。
水素脆化の防止
溶接時には、周囲の雰囲気や溶接条件により水素が材料内部に侵入しやすくなります。
これを防ぐために、低水素ガスを用いた保護ガスの使用や、真空溶接、無酸素銅の使用が推奨される場合があります。
予熱と後熱処理
溶接前に適切な予熱を行い、溶接後は徐冷や後熱処理を実施して内部応力を緩和することが重要です。
これにより割れの発生リスクを低減できます。
熱処理時の温度管理
高温での熱処理は水素脆化を誘発する可能性があるため、温度管理を厳密に行い、加熱速度や保持時間にも配慮が必要です。
特に水素が発生しやすい雰囲気は避けるべきです。
代替材料の検討
溶接や高温工程が頻繁に行われる場合は、水素脆化のリスクが少ない無酸素銅などへの切り替えも検討されます。
これらの注意点を守ることで、タフピッチ銅の優れた特性を最大限に活かしつつ、加工トラブルを防止できます。
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