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試作人基礎講座

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亜鉛めっきとは?金属を守る基本の防錆技術を徹底解説

金属材料を扱うあらゆる産業において、「錆(さび)」は避けて通れない大きな課題です。
特に鉄や鋼は、空気中の酸素や水分と反応して容易に腐食し、機械の寿命や構造物の安全性を大きく損なう原因となります。
こうした問題を防ぐために広く採用されているのが「亜鉛めっき」です。
亜鉛めっきとは、鉄や鋼の表面に亜鉛の薄い膜を形成することで、腐食の進行を抑える表面処理技術のことを指します。
その防錆効果は非常に高く、屋外構造物から自動車部品、電子機器の筐体に至るまで、幅広い分野で利用されています。
亜鉛は鉄よりも先に酸化する性質を持つため、犠牲防食作用によって下地金属を守ります。
また、めっき方法にも「溶融亜鉛めっき」「電気亜鉛めっき」「合金めっき」などがあり、求める性能や用途に応じて使い分けられています。
本記事では、亜鉛めっきの基本原理から種類・特徴、さらには実際の用途やメリットまで、実務で役立つ視点から詳しく解説していきます。

亜鉛めっきとは

亜鉛めっきとは、鉄や鋼などの金属表面に薄い亜鉛の層を形成し、腐食を防止するための表面処理技術です。
鉄は空気中や湿気、塩分などに触れると酸化しやすく、赤錆を生じて強度や外観を損ないます。
これに対し、亜鉛は鉄よりもイオン化傾向が高く、先に溶け出して鉄の腐食を防ぐ「犠牲防食作用」を持ちます。
この特性により、亜鉛めっきは防錆性能を飛躍的に向上させる方法として、古くから幅広い分野で利用されてきました。
亜鉛めっきの方式には、大きく分けて「電気亜鉛めっき」と「溶融亜鉛めっき(ドブづけめっき)」があります。
前者は電解反応を利用して亜鉛を均一に析出させる方法で、外観が美しく、薄膜で精密な仕上げが可能です。
一方、後者は高温で溶かした亜鉛に鋼材を浸漬してコーティングする方法で、厚い皮膜が得られ、高い耐食性を発揮します。
用途や求められる性能に応じて、適切な方法が選定されます。
また、めっき後にはクロメート処理(化成皮膜処理)が施されることが多く、これによりさらに耐食性や外観が向上します。
近年では環境規制により六価クロムを含まない「三価クロメート処理」が主流となり、環境負荷低減と高性能化が両立されています。
このように、亜鉛めっきは単なる「防錆対策」にとどまらず、製品の長寿命化・美観保持・メンテナンス性向上に寄与する重要な技術です。
建築資材や自動車部品、家電製品から精密機器まで、多様な分野で不可欠な基盤技術となっています。

亜鉛めっきの歴史と普及の背景

亜鉛めっきの起源は18世紀に遡ります。
1742年、フランスの化学者メルテンスが鉄を溶融亜鉛に浸すことで錆を防げることを発見したのが始まりとされています。
これがのちの「溶融亜鉛めっき(ホットディップめっき)」の原型となり、19世紀にはヨーロッパ全土に広まりました。
工業化の進展とともに、鉄鋼構造物や橋梁、屋根材などの耐久性向上に大きく貢献しました。
日本でも明治時代以降、鉄道や建築、造船の発展に合わせて亜鉛めっきが普及しました。
特に高度経済成長期には、自動車や電気製品の需要増加に伴い、「電気亜鉛めっき」が主流となり、外観品質や量産性の向上が求められました。
これにより、めっき設備や化学浴の管理技術が飛躍的に進化し、今日の高品質な亜鉛めっきが確立されました。
近年では、単なる防錆だけでなく、環境負荷の少ない「三価クロメート処理」や「Zn-Ni合金めっき」など、新たな技術も台頭しています。
また、カーボンニュートラルの流れの中で、省エネルギーめっきや再利用可能なめっき液開発も進められています。
こうした進化により、亜鉛めっきは古典的な技術でありながら、今なお現代の製造業において不可欠な存在であり続けています。

めっき厚と性能の関係

亜鉛めっきの防錆性能は、皮膜の「厚さ(膜厚)」と密接に関係しています。
一般に、亜鉛層が厚いほど犠牲防食作用が長く持続し、腐食寿命が延びます。
たとえば電気亜鉛めっきでは通常5〜25μm程度の膜厚が一般的ですが、溶融亜鉛めっきでは50〜100μm以上の厚膜を形成することも可能です。
この違いが、屋内用途か屋外構造物かといった適用範囲を左右します。
JIS規格では用途に応じた膜厚や試験条件が定められており、例えばJIS H 8610では電気亜鉛めっきの膜厚区分が明確に示されています。
また、耐食性を評価するために「塩水噴霧試験(SST)」が行われ、赤錆が発生するまでの時間で品質を確認します。
ただし、膜厚を増やすだけでは良好な防錆性が得られない場合もあります。
密着性が悪いと皮膜が剥離し、逆に腐食を促進することもあるため、前処理や下地状態の管理が極めて重要です。
したがって、適正な膜厚と高い密着性を両立させることが、亜鉛めっきの品質を決定づける要因となります。

亜鉛めっきの種類と特徴

亜鉛めっき品のイメージ

電気亜鉛めっきの概要と特性

電気亜鉛めっき(Electrogalvanizing)は、電解反応を利用して鉄や鋼の表面に亜鉛を均一に析出させる方法です。
被めっき材を陰極、亜鉛を陽極とした電解槽に浸漬し、電流を流すことで、亜鉛イオンが陰極表面に還元・析出して薄い金属皮膜を形成します。
電気化学的な制御が可能なため、膜厚を精密に調整でき、光沢や外観品質にも優れています。
この均一性と制御性こそが、電気亜鉛めっきの最大の特長です。
電気亜鉛めっきは、特に薄板鋼板や自動車部品、家電筐体などの美観と寸法精度が要求される製品に多く用いられます。
通常、膜厚は5〜25μm程度で、精密部品でも表面仕上げを損なわず、ネジや機構部品にも適しています。
また、めっき後にクロメート処理や有機トップコートを施すことで、耐食性・外観・指紋防止などの性能をさらに高めることが可能です。
この方法の利点は、まず膜厚の均一性にあります。
複雑な形状の部品でも比較的均一にめっきがつくため、ねじや細孔部分の過剰析出を防げます。
さらに低温処理であるため、熱による変形や歪みが発生しにくく、熱処理済みの鋼材にも適用しやすいという特徴もあります。
一方で、電気亜鉛めっきにはいくつかの注意点もあります。
まず、皮膜が比較的薄いため、屋外や過酷な腐食環境下では耐久性が不十分となる場合があります。
そのため、外装や構造物など長期耐候性が必要な用途には、後述する「溶融亜鉛めっき」が選ばれることが多いです。
また、電解液(めっき浴)の組成や電流密度管理が品質を大きく左右するため、プロセス管理技術が重要になります。
近年では、従来のシアン浴やクロム処理を用いない「環境対応型電気亜鉛めっき」への移行が進んでいます。
アルカリ非シアン浴や酸性硫酸浴などが主流であり、廃液処理や作業安全性の改善にもつながっています。
また、より高い防錆性能を求めて「亜鉛-ニッケル(Zn-Ni)めっき」や「亜鉛-鉄(Zn-Fe)めっき」などの合金電気めっきも広く採用されており、電気亜鉛めっき技術は今も進化を続けています。

溶融亜鉛めっき(ドブづけめっき)の特徴

溶融亜鉛めっき(Hot-dip galvanizing)とは、鋼材を約450℃に加熱された溶融亜鉛浴に直接浸漬し、表面に厚く強固な亜鉛皮膜を形成する方法です。
「ドブづけめっき」とも呼ばれ、構造物や屋外設備など、耐食性が求められる分野で広く用いられています。
この方法では、単なる亜鉛層の付着にとどまらず、鉄と亜鉛が化学的に反応して「合金層」を形成するため、非常に高い密着性と長期防錆性を発揮します。
溶融亜鉛めっきの皮膜は、鉄—亜鉛合金層(γ・δ・ζ層)と、最外層の純亜鉛層(η層)から構成されています。
この多層構造により、外側の亜鉛層が犠牲防食作用を担い、内側の合金層が機械的な密着性を高める役割を果たします。
膜厚は一般に50〜100μm程度と非常に厚く、電気めっきの2〜5倍に達します。
この厚みが長期にわたる防錆効果を実現しており、屋外で20年以上錆を防ぐことも可能です。
主な用途としては、橋梁や鉄塔、ガードレール、建築用鋼材、農業設備、道路標識など、屋外環境下での使用が中心です。
また、最近では太陽光発電設備や海岸近くの構造材など、厳しい塩害環境でも採用が増えています。
一方、溶融亜鉛めっきには課題もあります。
高温処理であるため、薄板や精密部品では変形や歪みが生じやすく、寸法精度を厳密に要求する製品には不向きです。
また、表面はややマットで銀白色の「花模様(スパングル)」が現れることがあり、装飾性よりも機能性重視の用途に向いています。
品質管理の面では、浸漬時間、亜鉛浴の温度、鉄材の化学組成(特にSi・P含有量)が仕上がりに影響します。
Si含有量が高い鋼材では反応が過剰に進行し、「黒灰色めっき」になることもあるため、素材選定にも注意が必要です。
近年では、従来の溶融亜鉛めっきに加え、「アルミニウム-亜鉛合金めっき(Galvalume®)」なども普及しつつあります。
これにより、耐熱性や塩害耐性がさらに向上し、建築分野での使用が拡大しています。
溶融亜鉛めっきは、今なお最も堅牢で信頼性の高い防錆技術の一つとして、社会インフラを支え続けています。

機械亜鉛めっき・熱拡散亜鉛めっきの特徴

電気めっきや溶融めっきに加え、「機械亜鉛めっき」と「熱拡散亜鉛めっき」は、特殊用途で活躍するプロセスとして注目されています。
どちらも一般的な方法では対応が難しい部品形状や使用環境において優れた効果を発揮します。
まず機械亜鉛めっき(Mechanical Plating)は、電気を使わず機械的エネルギーを利用して金属粉末を付着させる方法です。
主にボルトやナットなどの小物部品を対象とし、ドラム内でガラスビーズなどのメディアと一緒に回転させ、衝突エネルギーによって亜鉛粉末を被加工物の表面に密着させます。
電解を用いないため「水素脆化(Hydrogen Embrittlement)」が発生しないという大きな利点があります。
高強度ボルトやスプリングなど、熱処理された鋼部品に適した防錆方法として広く利用されています。
機械めっきは膜厚が均一で、ネジ部などの細かい形状にも良好に皮膜を形成できます。
また、電気を使わないため設備コストが比較的低く、電気めっきに比べて環境負荷が少ない点も評価されています。
一般的な膜厚は5〜25μm程度で、耐食性は電気亜鉛めっきと同等、またはやや優れた性能を発揮します。
さらに、クロメート処理や有機コートを併用することで、より高い防錆効果を得ることも可能です。
一方で、熱拡散亜鉛めっき(Thermal Diffusion Galvanizing:TDG)は、粉末状の亜鉛を鋼材表面に高温で拡散させ、鉄-亜鉛合金層を形成する処理法です。
被加工物を亜鉛粉末とともに密閉容器に入れ、約300〜400℃で加熱することで、亜鉛原子が鉄表面に拡散し、化学的に強固な合金層を作ります。
このため、皮膜が剥離しにくく、耐摩耗性や耐食性に非常に優れています。
熱拡散めっきの特徴は、まず「剥がれない皮膜」にあります。
電気めっきのように界面に明確な境界が存在せず、金属結合によって一体化しているため、衝撃や摩耗にも強いのが特長です。
また、熱処理によって水素脆化が生じない点も重要で、航空機部品や高応力ボルトなどの安全性が重視される分野に適しています。
一方で、処理温度が高いため、熱変形や寸法精度への影響が懸念される場合もあります。
また、プロセスコストが高く、大量生産よりも高付加価値部品向けに用いられることが多いです。
近年では、電気めっきや溶融めっきと組み合わせるハイブリッド処理も研究されており、要求特性に応じた最適めっき法の選定が進んでいます。
このように、機械亜鉛めっきと熱拡散亜鉛めっきは、それぞれ異なる原理で鉄の防錆を実現する技術です。
特に水素脆化防止や高密着性が求められる場面では欠かせない存在となっています。

三価クロメート・有色クロメートとの組み合わせ

亜鉛めっきは単体でも優れた防錆性能を持ちますが、さらに耐食性を向上させるために行われるのが「クロメート処理(化成皮膜処理)」です。
これは、めっき後の亜鉛表面を化学的に変化させ、酸化被膜を形成することで腐食進行を抑制する技術です。
クロメート処理は、長年にわたり「有色クロメート(六価クロム)」が主流でしたが、近年は環境規制の強化により、「三価クロメート処理」が急速に普及しています。
まず有色クロメート(六価クロム系)は、鮮やかな虹色〜黄緑色の外観を持ち、極めて高い耐食性を誇ります。
皮膜中に含まれる六価クロムが自己修復作用を発揮し、傷やピンホール部を再酸化被膜で覆うことで錆の進行を防ぎます。
この優れた防錆性能から、かつては自動車や建築、電機製品などあらゆる分野で標準的に使用されていました。
しかし六価クロムは人体や環境に有害であり、RoHS指令やELV指令などの国際規制により使用が制限されました。
これを受けて登場したのが三価クロメート処理(Trivalent Chromate)です。
三価クロム化合物は毒性が低く、廃液処理が容易であるため、環境負荷を大幅に軽減できます。
外観は透明〜青色が一般的で、有色クロメートに比べるとやや光沢が落ち着いた印象になります。
三価クロメートは初期には耐食性が劣るとされましたが、近年の改良により、添加剤や有機樹脂トップコートを併用することで性能は大きく向上しています。
現在では、自動車メーカーや電子機器メーカーの多くが三価クロメートを標準採用しています。
また、「黒色三価クロメート」や「虹色タイプ」など外観バリエーションも拡充しており、意匠性の面でも実用性が高まっています。
さらに、有機トップコートとの組み合わせ処理も一般的です。
これはクロメート層の上に薄いポリマーコートを施すことで、耐食性・耐薬品性・潤滑性をさらに高める方法です。
特にボルトやナットなどの締結部品では、組み付けトルクの安定や防錆期間の延長に寄与します。
今後は、三価クロメート処理に加え、ジルコニウム系・チタン系化成皮膜など六価クロムを全く使用しない新規処理技術の普及も進むと予想されます。
これにより、亜鉛めっきは「高耐食性+環境配慮」の両立技術として、より広範な分野で活躍していくでしょう。

亜鉛めっきの工程と管理ポイント

前処理工程(脱脂・酸洗い・活性化)

亜鉛めっきの品質を左右する最も重要な工程の一つが「前処理」です。
どれほど高度なめっき技術を用いても、被めっき材の表面が汚れていれば、密着性の悪い不良皮膜となり、剥離や腐食の原因になります。
前処理は、金属表面の油分・酸化膜・異物を完全に除去し、清浄で化学的に活性な状態を作るために行われます。
主な工程は「脱脂 → 酸洗い → 活性化」の3段階です。
最初の脱脂工程では、加工油や防錆油などの有機汚染物を除去します。
これにはアルカリ脱脂や電解脱脂が一般的です。
アルカリ脱脂は苛性ソーダ(NaOH)やリン酸塩を含む温浴に浸漬して油を乳化・分解させる方法で、機械加工後の部品などに適しています。
電解脱脂では、部品を電解槽内で電極として使用し、気泡の発生や電気化学反応によって汚れを剥離します。
これにより表面がより均一に洗浄され、後工程の密着性が向上します。
次に行われるのが酸洗い工程です。
これは金属表面の酸化膜(スケール)や錆を除去する処理で、希硫酸または塩酸がよく用いられます。
特に熱間圧延材や鋳造品では酸化被膜が強固なため、この工程が不可欠です。
酸洗いは短時間で行わないと、過剰な溶解による寸法変化や表面粗化を招くことがあるため、濃度・温度・時間の管理が非常に重要です。
酸洗い後には、活性化処理が行われます。
酸洗い直後の鉄表面は一見清浄に見えますが、わずかな酸化被膜がすぐに再生成されるため、これを防ぐために硝酸や塩化アンモニウムを用いて表面を軽くエッチングします。
この処理によって金属表面が化学的に活性化され、亜鉛イオンとの反応性が高まり、密着性の良い皮膜が形成されやすくなります。
前処理工程では、洗浄液の劣化や汚染にも注意が必要です。
汚れた脱脂液や酸洗液を使用すると、逆に表面に不純物が残留し、ピンホールやブツなどの欠陥が生じることがあります。
そのため、液の交換時期管理や液組成の定期分析も品質維持の鍵となります。
このように、前処理はめっき品質の“基礎づくり”であり、適切な工程管理によってのみ、美しく強固な亜鉛皮膜が得られます。

めっき工程の概要

前処理で清浄化された素材は、いよいよ「めっき工程」に移ります。
ここでは電気的または化学的手段を用いて、亜鉛を鉄表面に析出させていきます。
電気亜鉛めっきと溶融亜鉛めっきでは工程や原理が異なりますが、どちらの場合も「安定した皮膜形成」と「均一な膜厚管理」が最大のポイントです。
まず電気亜鉛めっきの場合、被めっき材を陰極、亜鉛を陽極として電解槽に浸漬します。
槽内には、硫酸亜鉛浴(酸性浴)やアルカリ浴(非シアン型)が用いられ、電流を流すことで亜鉛イオンが陰極表面に還元・析出します。
このとき、電流密度・液温・攪拌状態などが皮膜の均一性を左右します。
例えば、電流密度が高すぎると表面が荒れて焼けやピンホールが発生し、低すぎると析出速度が遅くなります。
したがって、適切な条件管理と自動制御システムの導入が不可欠です。
また、めっき浴には光沢剤や界面活性剤などの添加剤が用いられます。
これらは結晶の微細化や平滑化を促進し、外観を美しく整える役割を果たします。
ただし、添加剤濃度が過剰になると皮膜が脆化するため、濃度分析と補給管理が求められます。
一方、溶融亜鉛めっきの場合は、前処理後に乾燥した鋼材を450℃前後の溶融亜鉛槽に一定時間浸漬し、鉄と亜鉛の反応によって合金層を形成します。
浸漬時間や引き上げ速度を調整することで膜厚を制御し、過剰な付着を防ぎます。
この際、亜鉛浴に少量のアルミニウムを添加することで、酸化物の生成を抑え、光沢性を向上させることも一般的です。
めっき工程では、被めっき材の形状や配置も品質に影響します。
例えば、複雑な形状の部品では電流分布が偏りやすく、膜厚のムラが生じることがあります。
そのため、電極配置や吊り方、治具設計も重要な管理要素となります。
さらに、最新の生産ラインでは自動搬送・電流制御・液管理システムが導入され、品質の安定化と省人化が進んでいます。
これにより、従来よりも高精度・高効率な亜鉛めっきが実現しています。

後処理・乾燥・検査工程

処理槽のイメージ

めっき後の工程も、製品の最終品質を決定づける重要なステップです。
亜鉛皮膜は形成直後、表面が化学的に不安定で、空気や湿気に触れるとすぐに酸化膜を生じます。
このため、後処理で適切に表面を保護し、耐食性・外観性・密着性を確保することが求められます。
代表的な後処理がクロメート処理(化成処理)です。
これは、めっき層をクロム酸や三価クロム化合物の溶液に浸漬し、表面に緻密な酸化皮膜を形成する方法です。
クロメート皮膜はめっき層を化学的に保護し、さらに「自己修復性」を付与します。
傷がついても周囲のクロム化合物が再酸化して腐食を防ぐため、防錆寿命が大幅に延びます。
近年では環境対応型の三価クロメート処理が主流となり、有機トップコートとの組み合わせによってさらに高い性能を実現しています。
次に、乾燥工程では、処理液の残留を防ぐとともに、皮膜を安定化させます。
温風乾燥または遠赤外乾燥が一般的で、温度過多による皮膜変色を防ぐために精密な温度制御が必要です。
その後、製品は検査工程に移ります。
主な検査項目には「膜厚測定」「外観検査」「密着性試験」「耐食性試験(塩水噴霧試験)」などがあります。
膜厚は電磁式膜厚計や蛍光X線分析装置で非破壊的に測定し、均一性を確認します。
外観検査では、ピンホール・ムラ・ブツ・焼け・剥離などの欠陥を目視または自動カメラで検出します。
特に重要なのが密着性試験です。
テープ試験や曲げ試験によって、皮膜が基材から剥がれないかを確認します。
さらに、耐食性試験(SST:Salt Spray Test)では、一定時間塩水ミストにさらして赤錆発生までの時間を評価します。
これにより、製品の実使用環境での防錆寿命を予測できます。
これらの工程を通じて初めて、外観・機能・耐久性のすべてを満たす高品質な亜鉛めっき製品が完成します。
後処理・乾燥・検査は単なる仕上げではなく、「信頼性を保証する最終防衛線」と言える工程です。

亜鉛めっきの特性と性能評価

耐食性・防錆性能のメカニズム

亜鉛めっきが広く採用される最大の理由は、その優れた防錆性能にあります。
鉄鋼材料の最大の弱点は「酸化=錆び」であり、環境中の酸素と水分が鉄と反応して酸化鉄(赤錆)を生成します。
これを防ぐために、表面に亜鉛を被覆するのが亜鉛めっきの基本的な考え方です。
亜鉛が鉄を保護するメカニズムには、大きく分けて「バリア効果」と「犠牲防食効果」の2つがあります。
まずバリア効果とは、亜鉛めっき層が外部環境と鉄との直接接触を遮断し、酸素や水分の侵入を防ぐことによって腐食を抑制する仕組みです。
めっき表面に形成される緻密な酸化亜鉛(ZnO)や水酸化亜鉛(Zn(OH)₂)の保護皮膜が、ガスや液体の透過を抑制します。
この皮膜は自然に生成されるため、特別な処理を行わなくても自発的に防錆性能を発揮します。
もう一つの重要な仕組みが犠牲防食効果(カソード防食作用)です。
これは、亜鉛が鉄よりも電気化学的に卑な金属であることを利用した現象です。
もし皮膜にピンホールや傷が生じ、鉄が露出したとしても、電解質(湿気や雨水)が存在する環境下では、亜鉛が優先的に溶解(腐食)して電子を供給し、鉄の酸化を防ぎます。
つまり、亜鉛が「身代わり」となって鉄を守るわけです。
この犠牲防食効果は、亜鉛めっきが屋外環境や海岸地帯でも長期間防錆力を維持できる最大の要因となっています。
また、亜鉛の腐食生成物は緻密で粘着性が高く、露出部を再び覆う「自己修復作用」も持ちます。
これにより、微細な傷や擦り跡であっても短時間で保護膜が再形成され、腐食の進行を抑制します。
亜鉛めっきの防錆寿命は、膜厚・環境条件・後処理によって大きく変化します。
一般的に、内陸部の乾燥環境では5μm程度の薄膜でも数年の防錆が可能ですが、湿潤環境や海塩粒子の多い地域では20~30μm以上が推奨されます。
さらに、三価クロメート処理や有機トップコートを併用することで、従来の倍以上の耐久性を確保することも可能です。
このように、亜鉛めっきの防錆性能は単なる「被覆」ではなく、電気化学的な保護と化学的バリアの二重構造によって実現されている点が最大の特徴といえます。

外観・光沢・密着性の評価

亜鉛めっきは防錆目的だけでなく、外観品質や意匠性の面でも重要な役割を担っています。
とくに家電、建築金物、自動車部品などでは、表面の光沢・平滑性・均一性が製品の印象を大きく左右します。
外観品質は、主に「結晶構造」「めっき条件」「添加剤」「後処理」の組み合わせで決定されます。
電気亜鉛めっきでは、めっき浴の種類(酸性・アルカリ性)や電流密度が外観に直結します。
酸性浴では結晶が緻密で明るい銀白色の光沢が得られ、装飾用にも適しています。
一方、アルカリ浴ではやや灰色がかった落ち着いた外観となりますが、均一な膜厚形成がしやすく、複雑形状品に有利です。
また、添加剤(光沢剤・レベラー・湿潤剤)の調整により、鏡面のような高光沢仕上げから、マット調や梨地調まで自在にコントロールできます。
後処理であるクロメート皮膜や有機コートを加えると、青白色・黒色・虹色など、装飾的なバリエーションを持たせることも可能です。
密着性の評価も重要です。
密着性が低いと、加工中や使用中に皮膜が剥離し、下地が露出して腐食が急速に進行します。
密着性は前処理(脱脂・酸洗い・活性化)の品質に大きく依存し、微細な汚染や酸化膜が残っていると界面結合が弱くなります。
試験法としては、テープ剥離試験・曲げ試験・衝撃試験などが行われます。
さらに、加工後の密着性保持も評価の対象です。
めっき品が後工程で曲げ・圧入・溶接される場合、皮膜がその変形に耐えられる延性を持つかが重要です。
特に電気亜鉛めっきでは、厚膜になるほど脆化傾向が強くなるため、用途に応じて膜厚と添加剤配合の最適化が求められます。
外観・密着性の評価は「美しさ」と「機能性」の両立を図る工程であり、これを適正に管理することで初めて高信頼性のめっき製品が完成します。

摩耗・耐久性・電気的特性

亜鉛めっきは防錆性能が注目されがちですが、実は摩耗特性や電気特性の面でも優れた性質を備えています。
まず摩耗耐性について、亜鉛は比較的柔らかい金属(ビッカース硬度50~100程度)であるため、耐摩耗性単体では高くありません。
しかし、亜鉛めっきの表面には自然酸化膜やクロメート皮膜が形成されるため、滑り摩耗や接触摩耗に対して一定の保護効果を発揮します。
また、亜鉛-鉄合金層が存在することで、基材との密着強度が高く、剥離を起こしにくい点も耐久性向上に寄与します。
さらに、耐摩耗性を強化する方法として、ニッケル亜鉛合金めっきやトップコート塗装との複合処理が採用されることがあります。
これにより表面硬度が上昇し、摺動部品やボルト・ナットなどの繰り返し摩擦を受ける用途にも対応できます。
次に電気的特性についてですが、亜鉛は導電性が高く、接触抵抗が比較的低いため、電気接点や筐体のシールド材にも応用されています。
特に電子機器では、電磁波シールド効果と防錆を同時に得られるため、コスト効率の良い表面処理として重宝されています。
耐久性の観点では、環境条件に応じた膜厚・後処理の選定が重要です。
屋外暴露試験の結果では、5μmの電気亜鉛めっきでおおよそ1~2年、25μmの溶融亜鉛めっきでは10年以上の防錆寿命が確認されています。
また、クロメート皮膜や有機コーティングを併用すれば、さらに数倍の耐用年数を得られます。
加えて、亜鉛めっきはリサイクル性にも優れています。
亜鉛は比較的低温(約420℃)で再溶融可能であり、環境負荷が少ないリユース材としても注目されています。
このように、亜鉛めっきは「防錆」「摩耗」「導電」「環境対応」といった多面的性能を兼ね備えた表面処理であり、工業用・建築用・電機用など幅広い分野で安定した性能を発揮しています。

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【この記事の著者】

株式会社アスク 営業部

小ロット・小物部品の製作を手掛け、手のひらサイズの部品製作を得意としています。国家検定1級技能士が多数在籍し、一日でも早く製品をお届けするためお見積りの回答は最短1時間!
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