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硬質クロムめっきの基礎知識:産業機器の性能向上に欠かせない表面処理技術

硬質クロムめっきは、金属部品の表面に数ミクロンから数百ミクロンの厚さでクロムを電気めっきにより析出させ、耐摩耗性や耐食性、表面硬度を向上させる表面処理技術です。
別名「工業用クロムめっき」や「インダストリアルクロムめっき」とも呼ばれ、装飾目的ではなく、機能性向上を主な目的としています。
析出されるクロムは六価クロム溶液から得られ、これが部品の表面に結晶化して形成されるため、非常に高い硬度(Hv800〜1000以上)と優れた滑り特性を発揮します。

硬質クロムめっきとは

硬質クロムめっきとは、金属部品の表面に厚さ数ミクロンから数百ミクロンにおよぶクロム(Cr)を電気めっきによって析出させ、耐摩耗性や耐食性、表面硬度を高めるための表面処理技術です。
別名「工業用クロムめっき」や「インダストリアルクロムめっき」とも呼ばれ、装飾目的ではなく、機能性向上を主な目的としています。
析出されるクロムは六価クロム溶液から得られ、これが部品の表面に結晶化して形成されるため、非常に高い硬度(Hv800〜1000以上)と優れた滑り特性を発揮します。
硬質クロムめっきの最も大きな特徴は、その耐摩耗性にあります。
摩擦や衝撃を頻繁に受ける部品でも、めっき層が摩耗を防ぎ、長寿命化を実現します。
また、めっきされた表面には微細なクラックパターンが形成されることが多く、これが潤滑油の保持に寄与し、潤滑性の向上や焼き付き防止にも効果を発揮します。
これにより、摺動部品や回転部品に多く使用されるようになっています。
さらに、耐食性も硬質クロムめっきの重要な特性です。
クロム自身が酸やアルカリに比較的安定であり、腐食環境下でも部品を保護します。
ただし、前述の微細クラックが腐食の起点となる場合もあるため、塩水や酸性環境下で使用される場合には、下地めっき(ニッケルめっきなど)と併用されることもあります。
もう一つの特徴として、高温下でも性能を維持できる点が挙げられます。
クロムは耐熱性に優れ、200〜300℃程度の高温環境でも物性が大きく劣化しないため、エンジン部品や熱処理用治具などにも使用されています。
硬質クロムめっきの用途は、航空・自動車・精密機械・油圧機器・金型など多岐にわたります。
これらの分野では、寸法精度を維持したまま表面性能を強化できるというメリットから、再生修理にも頻繁に用いられます。
たとえば、摩耗したシャフトやピストンロッドに再度めっきを施すことで、部品を新品同様に再生することが可能です。
一方で、硬質クロムめっきは六価クロムを使用するため、環境および作業者の健康への影響が問題視されており、厳しい法規制の対象ともなっています。
近年では代替技術の開発も進められているものの、その優れた機能性から依然として多くの産業現場で重要な役割を担っています。

装飾クロムめっきとの違い

硬質クロムめっきと装飾クロムめっきは、いずれもクロムを用いた表面処理技術ですが、その目的・用途・工程・性能面で大きく異なります。
混同されがちですが、産業用途においてはそれぞれ明確な区分があり、適切に使い分けられています。
まず、目的の違いについてです。
硬質クロムめっきは主に部品の耐摩耗性・耐食性・表面硬度を向上させ、機械的な性能を強化するために施されます。
対して装飾クロムめっきは、外観の美しさや光沢を重視し、装飾や防錆のために薄い層を均一に施す処理です。
自動車のバンパーや家具の金属部分、家庭用水栓金具などの外観仕上げが典型的な用途です。
めっきの厚さも大きく異なります。
硬質クロムめっきは一般的に数十ミクロンから数百ミクロンと比較的厚い層を形成し、摩耗に耐えうる硬い層を作ります。
これに対して装飾クロムめっきは、1〜2ミクロン程度の薄い層が主流であり、厚くすると割れやすくなり美観を損なうため、薄層に留められます。
表面硬度の差も重要な違いです。
硬質クロムめっきはHv800〜1000を超える高硬度を持ち、摩耗抵抗に優れていますが、装飾クロムめっきの硬度はそれよりも低く、主に防錆と装飾的な役割を担います。
硬質クロムめっきは表面に微細なクラックが多く存在しますが、これが潤滑保持を助ける機能面の特徴です。
一方、装飾クロムめっきはクラックが少なく、光沢のある滑らかな表面に仕上がります。
使用されるクロムの種類やめっき液の成分も異なります。
硬質クロムめっきは六価クロムを主成分とする強酸性の電解液が用いられ、特殊な電解条件(高電流密度、低温度など)が必要です。
装飾クロムめっきはやや異なる電解液条件で行われ、低電流密度・薄層形成が特徴です。
加工工程とコストも異なります。
硬質クロムめっきは厚膜形成に時間がかかり、均一な厚みを保つために加工が難しい面もあります。
反対に装飾クロムめっきは薄膜のため短時間で済み、装飾品の大量生産に適しています。
用途の違いも明確で、硬質クロムめっきは工業用部品の機能強化に特化しています。
たとえば、プレス金型、油圧シリンダー、シャフト、バルブ、機械摺動部品などに使われ、摩耗・腐食・焼き付きなどの過酷条件に耐えます。
装飾クロムめっきは見た目の良さを優先するため、家庭用品、自動車の装飾部品、家具金具、電化製品の表面などに使われます。

このように、硬質クロムめっきは「機能重視」、装飾クロムめっきは「美観重視」と言えます。
それぞれの特徴を理解し、用途に応じて使い分けることが重要です。

硬質クロムめっきの性能と利点

硬質クロムめっきのイメージ

耐摩耗性と潤滑性の向上

硬質クロムめっきは、その最大の特徴である高い耐摩耗性により、多くの産業分野で重宝されています。
めっき層の硬度はビッカース硬さ(Hv)で800〜1000以上に達し、これは多くの鋼材表面の硬度を大幅に上回る値です。
この硬さが摩擦や擦り減りに強い耐性を与え、部品の寿命延長を実現しています。
耐摩耗性は、機械部品が長期間動作する上で非常に重要な性能であり、特に回転軸、ピストン、バルブ、金型などの摺動部品では、摩耗が性能低下や故障の主な原因となります。
硬質クロムめっきを施すことで、これらの部品の摩耗を抑制し、安定した動作とメンテナンスコストの削減が可能になります。
さらに、硬質クロムめっきの表面には独特の微細な亀裂(マイクロクラック)が均一に分布しています。
一見すると欠陥のように思えますが、この微細なクラックは潤滑油やグリースの保持に大きく寄与しています。
潤滑剤がこれらのクラック内部に入り込むことで潤滑層が形成され、摺動面の摩擦係数を低減し、焼き付きや過熱を防止します。
この潤滑性向上の効果により、硬質クロムめっきされた部品は潤滑剤の補給頻度を減らしつつ、よりスムーズに動作することができるため、産業機械の稼働効率向上にも貢献します。
特に油圧シリンダーやポンプ、圧縮機などの部品では、潤滑保持が機械の性能と耐久性を左右する重要な要素です。
また、硬質クロムめっきは摺動部の焼き付き(固着)防止にも効果があります。
焼き付きは高温や高圧条件下で金属同士が溶着し、部品が破損する現象ですが、硬質クロムの硬さと表面特性がこれを防ぎ、信頼性の高い動作を実現します。
硬質クロムめっきの耐摩耗性向上は単に硬度の高さだけでなく、めっき層の均一な厚みや密着性にも依存します。
均一なめっき層は摩擦時の応力集中を防ぎ、亀裂の進展を抑制するため、長期間にわたり優れた耐摩耗性を維持できます。

このような理由から、硬質クロムめっきは、工業用金型や自動車エンジン部品、油圧機械のシリンダーライナー、摺動軸受、プレス機械の部品など、厳しい摩耗条件下での使用に最適な表面処理技術として幅広く採用されています。

耐食性と表面硬度

硬質クロムめっきは、その高い表面硬度とともに耐食性にも優れており、過酷な環境下での部品保護に大きな効果を発揮します。
めっき層の表面硬度はビッカース硬さ(Hv)で約800〜1000程度と非常に高く、これは多くの一般鋼材の硬度をはるかに上回る数値です。
この高硬度層は、摩耗だけでなく腐食や擦り傷に対する強い防御壁となります。
硬質クロムめっきの耐食性の主な理由は、クロムの化学的安定性にあります。
クロムは酸素と強く結合して不動態被膜(酸化クロム膜)を形成し、これが腐食を防ぐバリア層として機能します。
こうした不動態層により、酸やアルカリ、塩水など多様な腐食環境に耐えることが可能です。
特に自動車や航空機部品、油圧シリンダーなどの環境は多湿であったり油や化学物質に触れる機会が多いため、耐食性は非常に重要な要素となります。
ただし、硬質クロムめっきには表面に微細な亀裂(マイクロクラック)が形成される特徴があります。
この亀裂は摩擦に有利な潤滑保持機能を持つ一方で、場合によっては腐食の起点になることもあります。
特に塩水や酸性の環境では、これらの亀裂を通じて基材に腐食が進むリスクがあり、用途によっては基材との密着性や下地処理(ニッケルめっきなど)を工夫して対策が講じられます。
表面硬度に関しては、硬質クロムめっきは硬さだけでなく耐圧縮強度や耐引裂き強度も高く、部品の耐久性向上に寄与します。
これにより、摺動部や圧力がかかる部分での塑性変形を防ぎ、形状の安定性を保つことができます。
高硬度のため加工性は低下しますが、その分使用中の摩耗損失が少なくなるため、長期的には部品交換頻度の減少やメンテナンスコストの削減に繋がります。
また、硬質クロムめっきは高温でも硬度や耐食性をある程度維持できる点が優れています。
エンジン内部や高温油圧装置などでは、数百度に達する環境での耐久性が求められますが、クロムの特性により性能劣化が緩やかであるため信頼性が高いです。
このように硬質クロムめっきは、高い表面硬度と化学的安定性により、摩耗と腐食という二つの脅威から部品を守り、多様な産業分野での過酷な使用条件に対応しています。
とはいえ、その微細クラックによる腐食リスクには留意が必要であり、使用環境や要求性能に応じた適切な下地処理やめっき厚さの管理が重要となります。

高温環境下での安定性

硬質クロムめっきは、耐摩耗性や耐食性だけでなく、高温環境下における安定性も大きな特長の一つです。
産業機械のエンジン部品や熱処理用治具、ボイラー部品など、数百度に達する高温条件で使用される部品に対しても、その物理的・化学的特性を維持できるため、信頼性の高い表面処理として重宝されています。
クロム自体が高い耐熱性を持っており、酸化しにくい性質を持つことから、硬質クロムめっきは約200℃〜300℃の温度範囲で物性の大幅な低下を起こしにくい特徴があります。
このため、例えば自動車のエンジン内部にあるピストンロッドやバルブ部品に硬質クロムめっきが施されることがあります。
これらの部品は燃焼により発生する高温にさらされながら、同時に摩擦や衝撃にも耐えなければなりませんが、硬質クロムめっきはその複合的な要求を満たします。
高温下でのクロムの耐酸化性も、部品の長寿命化に寄与しています。
金属表面が酸化被膜に覆われることで、さらなる酸化や腐食の進行を抑制し、高温腐食やスケーリング(表面の剥離・劣化)を防ぎます。
これにより、メンテナンス間隔の延長や部品交換頻度の低減が可能となり、稼働率の向上に結びつきます。
ただし、高温下での使用にはいくつかの注意点もあります。
硬質クロムめっきは微細なマイクロクラックを含むため、長時間の熱応力や熱膨張の繰り返しにより、クラックが拡大して剥離や亀裂進展を招く恐れがあります。
こうした熱機械的ストレスに対する耐久性は、めっきの厚さや基材との密着性、そして使用環境の温度サイクルによって左右されるため、設計段階での十分な評価が必要です。
また、300℃を超える極端な高温環境や急激な温度変化にさらされる場合、硬質クロムめっきの硬度や耐食性が低下することも報告されています。
こうした場合は、耐熱性を強化した特殊なめっき条件の採用や、他の表面処理技術との組み合わせも検討されます。
さらに、近年の環境規制強化に伴い、硬質クロムめっきに代わる高温耐性めっき技術の開発も進められており、耐熱セラミックコーティングやプラズマスプレー法などの新技術との比較検討も活発です。
総じて、硬質クロムめっきは適切な設計・施工により、高温環境下でも優れた性能を発揮し、多様な産業分野での耐久性向上に貢献しています。
使用条件に応じた最適な厚さや下地処理の選定が、高温安定性を維持する鍵となります。

めっきの工程と技術

下地処理と脱脂の重要性

硬質クロムめっきを高品質に施すためには、めっきそのものの技術だけでなく、その前段階である「下地処理」や「脱脂処理」が極めて重要な役割を果たします。
これらの処理は、めっきの密着性、均一性、耐久性に直接的な影響を与えるため、表面処理工程の中でも最も慎重に行うべき工程の一つです。
まず、「脱脂処理」とは、素材表面に付着した油分やグリース、ホコリ、加工時の潤滑剤などの不純物を除去する工程です。
これらの異物が残った状態でめっきを施すと、めっきが均一に析出せず、密着不良やピンホール(小さな穴)、剥離といったトラブルを招く原因となります。
特に精密加工された金属部品の場合、切削油や研磨剤などが表面の微細な凹凸に入り込んでいることが多いため、徹底的な洗浄が求められます。
脱脂にはさまざまな方法があり、一般的には有機溶剤脱脂、アルカリ脱脂、電解脱脂などが用いられます。
たとえばアルカリ脱脂は、アルカリ性溶液に浸漬して油脂を化学的に分解・乳化させて除去する方法です。
電解脱脂は、被処理物を電極として電流を流すことで、表面の汚れをガスの発生とともに浮き上がらせて除去します。
これらは単独で使われることもあれば、複数工程を組み合わせて高度な脱脂処理を行うこともあります。
次に、「酸洗い(ピクルス)」という工程も下地処理の一部として重要です。
酸性溶液(一般に希硫酸や塩酸)を用いて、金属表面に形成された酸化皮膜やサビ、不純金属を化学的に除去し、金属素地を露出させる工程です。
酸洗いを施すことで、めっき液が素材に均一に接触し、めっき層の密着性を高めることができます。
ただし過度の酸洗いは母材の腐食や寸法変化を招くため、制御が必要です。
これらの脱脂および酸洗い処理の後には、純水による十分な水洗が行われます。
表面に残った薬品や微粒子を完全に洗い流すことで、めっき槽への異物持ち込みを防ぎ、めっき層の品質を保つためです。
水洗が不十分だと、めっき中に析出欠陥や表面荒れを引き起こすことがあります。
また、めっき処理前の下地研磨やショットブラストなどの機械的処理も行われることがあります。
これにより表面の凹凸を調整し、めっきの均一な厚さと美しい仕上がりが得られます。
とくに機械部品では、表面粗さ(Ra)を所定の値に整えることが機能面でも重要になります。
このように、硬質クロムめっきの品質は、「素材表面がどれだけ清浄で、かつ均一であるか」に大きく依存します。
下地処理の徹底がなければ、せっかくの高性能なクロムめっきもその効果を十分に発揮できません。
逆に言えば、脱脂・酸洗い・水洗といった基本的な処理を丁寧に行うことこそが、長寿命で信頼性の高いめっき加工の鍵を握っているのです。

電解めっきによる硬質クロムの析出

硬質クロムめっきは、電解めっきの一種であり、電気化学的反応によって金属クロムを素材の表面に析出させる技術です。
このプロセスでは、クロムを含む電解液中にワーク(被処理物)を浸し、直流電流を通電することで、陽極から供給された電気が陰極であるワーク表面に作用し、金属クロムが析出していきます。
一般的な硬質クロムめっきの電解液には、「クロム酸(H₂CrO₄)」と「硫酸(H₂SO₄)」の混合溶液が用いられます。
この硫酸は触媒として機能し、めっき反応を効率的に進行させる役割を果たします。
電解液中のクロム酸濃度や硫酸濃度、液温、pH、電流密度などはすべて析出されるクロムの品質に影響するため、これらのパラメーター管理は極めて重要です。
めっき反応は、以下のような形で行われます。
Cr₂O₇²⁻ + 14H⁺ + 6e⁻ → 2Cr(金属) + 7H₂O
この反応が素材の表面で連続的に進行することで、硬質クロムの被膜が徐々に形成されます。
電流密度を高めれば析出速度は速くなりますが、同時に亀裂の発生や皮膜の不均一化、内部応力の増加といった欠陥のリスクも高まるため、適切な制御が必要です。
また、硬質クロムめっきでは一般的に高電圧(4~12V程度)・高電流密度(20~60A/dm²)を使用します。
高電流密度は、クロムの高硬度を保ちながら高速で析出させるために不可欠ですが、一方で、効率(カソード電流効率)は10〜20%程度と低く、多くの電力が水素ガスの発生に消費されます。
これが作業環境や工程コストに大きく関わるため、省エネや排ガス対策が重要な課題となっています。
析出されるクロム層は通常、非常に硬くて薄い層(数μm〜数百μm)で、かつ表面には微細なマイクロクラックが自然に形成されます。
このマイクロクラック構造は潤滑保持に役立つ一方で、腐食の起点にもなり得るため、用途に応じてコントロールが求められます。
亀裂の少ない皮膜を得るためには、電解条件を最適化し、場合によっては添加剤を用いることで改善が図られます。
また、複雑形状の部品への均一なめっきは難しく、電流の集中・分散が生じると厚みムラが発生します。
そのため、特殊な治具やアノード設計、遮蔽板の使用、ワークの回転や揺動による電流分布の均一化などの技術的工夫が必要になります。
こうした制御技術が、仕上がりの精度とコストのバランスに大きく影響を与えます。
さらに、析出後の工程として「脱水素処理(ベーキング処理)」も重要です。
めっき中に発生した水素ガスが素材に吸収されると、「水素脆性(Hydrogen Embrittlement)」と呼ばれる素材の強度低下現象を引き起こす可能性があります。
特に高強度鋼材では致命的なクラックを生む恐れがあるため、130〜200℃程度の温度で2〜4時間加熱処理を行い、水素を放出させます。
このように、硬質クロムの電解めっきは化学・物理・装置設計の知見が集約された高度な技術であり、設備・制御・工程管理のいずれかが欠けると、めっきの品質や機能性を十分に発揮することはできません。
製品の最終性能を大きく左右する重要工程として、今も改良・進化が続いている分野です。

厚さ制御と面粗度の調整

めっきの様子のイメージ画像

硬質クロムめっきにおける「めっき厚さ」と「面粗度」は、最終製品の性能と機能を大きく左右する重要な品質特性です。
とりわけ、機械部品や精密機器部品などでは、要求される寸法精度や表面仕上げのレベルが非常に高く、それを満たすためには厳格な厚さ制御と表面処理技術が必要となります。
まず「めっき厚さ」についてですが、硬質クロムめっきでは用途に応じて数ミクロンから数百ミクロンまでの厚さが選ばれます。
例えば、耐摩耗性が求められるピストンロッドなどには50~100μm程度の厚さが一般的です。
一方で、精密部品や寸法補正を目的とした場合は、数μm単位の薄膜めっきが求められることもあります。
めっき厚さは「電流密度」と「通電時間」に大きく依存します。
一般的に、一定の電流密度で通電する時間が長いほど、厚いめっき皮膜が得られます。
しかし、ただ時間を延ばせば良いというわけではありません。
電流密度が高すぎたり、過剰な通電を行うと、皮膜にクラックが増えたり、内部応力が蓄積して剥離しやすくなったりするリスクがあります。
したがって、被めっき物の材質や形状、用途に応じて最適な条件で制御する必要があります。
また、部品全体に均一な厚さでめっきを施すことも簡単ではありません。
特に複雑な形状を持つワークの場合、エッジ部分や凹部には電流が集中・散逸しやすく、いわゆる“エッジ効果”が発生します。
この結果、場所によっては厚くなりすぎたり、逆にめっきが薄くなることがあります。
これを回避するためには、治具の工夫、アノードの配置調整、ワークの回転や揺動などを活用し、電流の分布をできるだけ均一にする工夫が必要です。
次に「面粗度」についてですが、硬質クロムめっきはそのままでは表面に微細なクラックや凹凸が生じやすく、Ra(算術平均粗さ)で0.3~1.0μm程度の粗さとなるのが一般的です。
これを潤滑保持性の向上などに活かす場合もありますが、精密な摺動面などではより滑らかな表面が必要です。
そのため、めっき後に研磨加工(ミラーフィニッシュやラップ加工など)を施すことが多く、Raを0.05μm以下に仕上げることも可能です。
研磨加工は、厚みの均一性や平面度にも影響するため、研磨を見越してやや厚めにめっきする“オーバープレート”という設計手法も採られます。
ただし、過研磨によりめっき層が剥がれることを防ぐため、厚さと研磨量のバランスは慎重に管理しなければなりません。
また、面粗度は単なる美観や触感の問題だけでなく、機能性にも直結します。
例えば、シール性が求められる油圧シリンダーでは、適切な粗さでないとオイル漏れやシールの摩耗を招くことがあります。
逆に潤滑油を保持したい摺動面では、ある程度の粗さがあった方が性能が向上するため、Raの目標値を用途ごとに最適化する必要があります。
このように、硬質クロムめっきでは単に「めっきをつける」だけでなく、「どれだけ正確に厚さを制御できるか」「どの程度の表面粗さに仕上げられるか」が製品性能を決定づける要素です。
寸法精度・平滑性・耐久性を両立させるためには、めっき工程だけでなく、その前後の工程との密接な連携が不可欠となります。

航空宇宙・精密機器分野での展開

硬質クロムめっきは、その高い硬度、耐摩耗性、低摩擦特性、耐食性といった機能性から、航空宇宙産業および精密機器分野において極めて重要な表面処理技術として位置づけられています。
これらの分野では、部品の軽量化、高耐久性、高信頼性が求められるため、単なる装飾や防錆のためのめっきではなく、構造的・機能的要件を満たす「機能めっき」として硬質クロムが選ばれるのです。
まず航空機分野では、アクチュエータピストンロッド、ギア、ベアリング、シリンダー、油圧システム部品などの摺動部品に硬質クロムが用いられています。
これらの部品は、離着陸時の衝撃や、極端な温度差、圧力変動、摩耗負荷にさらされる過酷な環境下で使用されるため、耐久性と寸法安定性が極めて重要です。
硬質クロムめっきはこれらの要件を満たすと同時に、再めっき・補修が可能であるため、メンテナンス性にも優れた特性を持ちます。
また、航空宇宙分野では部品のトレーサビリティや工程の再現性が非常に重視されるため、めっきプロセスの品質管理にも厳しい規格が設けられています。
たとえば、AMS 2406(航空材料規格)などの国際的な基準に適合する必要があり、膜厚、硬度、表面粗さ、密着性、水素脆性対策など、複数の項目について厳格な管理と検査が義務付けられています。
次に、精密機器分野では、計測機器、光学部品、医療機器、半導体製造装置などで硬質クロムめっきが活用されています。
これらの用途では、ナノレベルの寸法誤差や表面欠陥が性能に直結するため、めっきの均一性、表面の滑らかさ、クリーン性が極めて高い水準で求められます。
微細な凹凸やピンホールがあるだけで不良品扱いになるケースもあり、処理業者には高度な技術力と管理能力が求められます。
精密機器部品に対するめっきでは、ミクロン単位の膜厚制御や、鏡面研磨によるRa 0.05μm以下の表面仕上げ、極めて狭い公差への適合が要求されます。
また、非磁性の特性を利用して、磁場に影響を与えずに高耐久な表面処理が必要な部品にも採用されるケースがあります。
一方で、近年の環境規制や航空機メーカーによるグリーンテクノロジー推進により、硬質クロムめっきに使用される六価クロムの使用制限が世界的に進んでおり、代替技術としてHVOF(高速フレーム溶射)や無電解ニッケル・コンポジットめっきなどの選択肢も台頭しています。
しかしながら、硬質クロムめっきの加工性・再処理性・コストパフォーマンスのバランスの良さから、特定の部品ではいまだに第一選択として使われているのが現状です。

このように、航空宇宙および精密機器の分野では、硬質クロムめっきは単なる耐摩耗コーティングではなく、「機能性を支えるインフラ技術」として不可欠な存在となっており、今後も高度化・環境対応を図りながら進化を続けることが期待されています。

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【この記事の著者】

株式会社アスク 営業部

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