析出硬化系ステンレス鋼の基本知識を学ぼう!
本日は析出硬化系ステンレス鋼について学んでいきましょう!
特徴や熱処理についてなどご紹介していきますので、是非ご覧ください♪
析出硬化系ステンレス鋼とは
析出硬化系ステンレス鋼とは、金属間化合物の析出を利用して、高い強度を得ることを目的としたステンレス鋼です。
代表的な鋼種にSUS630とSUS631があり、両鋼種ともJISによって規定されています。
また、これらの鋼種は、クロムの含有量とニッケルの含有量から、SUS630は17-4PH、SUS631は17-7PHと呼ばれることもあります。
析出硬化系ステンレスの組織と熱処理
析出硬化系ステンレス鋼では、固溶化熱処理後に析出硬化処理を行うことで、金属間化合物を析出させ、強度を高めています。
固溶化熱処理で過飽和に固溶した析出硬化元素を、時効硬化によって第2相を微細分散析出させるという仕組みです。
材質によって成分組成が異なるため、析出する金属間化合物や析出のメカニズムが異なります。
また、析出硬化系ステンレス鋼では、焼入れ鋼と比べて、より低温で熱処理を行うため、焼入れによって生じやすい変形、歪み、寸法変化、焼割れ、残留オーステナイトに起因する経年変化などが起こりにくいという特徴を持ちます。
SUS630の熱処理
SUS630では、銅の添加により析出硬化性を付与することで、Cu-過剰相を析出させます。
熱処理としては、固溶化熱処理後に、規定された次の4段階(H900、H1025、H1075、H1150)の析出硬化処理を施します。
JISにおいて、SUS630の熱処理条件は次のように定められています。
種類の記号 | 熱処理 | ||
SUS630 | 種類 | 記号 | 条件 |
固溶化熱処理 | S | 1020~1060℃ 急冷 | |
析出硬化処理 | H900 | 470~490℃ 空冷 | |
H1025 | 540~560℃ 空冷 | ||
H1075 | 570~590℃ 空冷 | ||
H1150 | 610~630℃ 空冷 |
固溶化熱処理では、1020~1060℃から急冷させ、マルテンサイトの金属組織が得られます。
この後、目的とする硬度に応じて析出硬化処理を行います。
析出硬化処理は、華氏による処理温度によって定められています。
例えば、H900では析出硬化処理温度が華氏900度(482℃)で、JIS上では470~490℃で析出硬化処理を行うよう定義されています。
SUS631の熱処理
SUS631では、Alの添加により析出硬化性を付与することで、Ni-Al金属間化合物相を析出させます。
熱処理では、まず固溶化熱処理において1000~1100℃から急冷し、準安定オーステナイト組織が得られます。
不安定なオーステナイトから安定なマルテンサイトに変態させるための熱処理(マルテン化処理)である、T処理(中間熱処理)あるいはR処理(サブゼロ処理)を行った後、析出硬化系(H処理)を行います。
JISにおいて、SUS631の熱処理条件は次のように定められています。
種類の記号 | 熱処理 | ||
SUS631 | 種類 | 記号 | 条件 |
固溶化熱処理 | S | 1000~1100℃ 急冷 | |
析出硬化処理 | RH950 | 955±10℃に10分保持、室温まで空冷、24時間以内に-73±6℃に8時間保持、510±10℃に60分保持後 空冷 | |
TH1050 | 760±15℃に90分保持、1時間以内に15℃以下に冷却、30分保持、565±10℃に90分保持後、空冷 |
SUS631においても、析出硬化処理温度に応じて熱処理記号が定められており、RH950とTH1050の2種類が存在します。
RH950では、S処理→R処理(955±10℃に10分保持、室温まで空冷、24時間以内に-73±6℃に8時間保持)→H処理(510±10℃に60分保持後、空冷)を行います。
TH1050では、S処理→T処理(760±15℃に90分保持、1時間以内に15℃以下に冷却、30分保持)→H処理(565±10℃に90分保持後、空冷)を行います。
析出硬化系ステンレスの特徴
機械的性質
種類の記号 | 熱処理記号 | 耐力 N/㎟ |
引張強さ N/㎟ |
伸び % |
硬さ | ||||
HBW | HRC | HRBSまたはHRBW | HV | ||||||
SUS630 | S | - | - | - | 363以下 | 38以下 | - | - | |
H900 | 1175以上 | 1310以上 | 厚さ5.0mm以下 | 5以上 | 375以上 | - | - | - | |
厚さ5.0mmを超え 15.0mm以下 |
8以上 | ||||||||
厚さ15.0mmを超えるもの | 10以上 | ||||||||
H1025 | 1000以上 | 1070以上 | 厚さ5.0mm以下 | 5以上 | 331以上 | - | - | - | |
厚さ5.0mmを超え 15.0mm以下 |
8以上 | ||||||||
厚さ15.0mmを超えるもの | 10以上 | ||||||||
H1075 | 860以上 | 1000以上 | 厚さ5.0mm以下 | 5以上 | 302以上 | 31以上 | - | - | |
厚さ5.0mmを超え 15.0mm以下 |
9以上 | ||||||||
厚さ15.0mmを超えるもの | 13以上 | ||||||||
H1150 | 725以上 | 930以上 | 厚さ5.0mm以下 | 8以上 | 277以上 | 28以上 | - | - | |
厚さ5.0mmを超え 15.0mm以下 |
10以上 | ||||||||
厚さ15.0mmを超えるもの | 16以上 | ||||||||
SUS631 | S | 380以下 | 1030以下 | 20以上 | 192以下 | - | 92以下 | 200以下 | |
RH950 | 1030以上 | 1230以上 | 厚さ3.0mm以下 | - | - | 40以上 | - | 392以上 | |
厚さ3.0mmを超えるもの | 4以上 | ||||||||
TH1050 | 960以上 | 1140以上 | 厚さ3.0mm以下 | 3以上 | - | 35以上 | - | 345以上 | |
厚さ3.0mmを超えるもの | 5以上 |
SUS630及びSUS631の機械的性質を示しています。
析出硬化系ステンレス鋼の硬度については、熱処理(焼入れ・焼戻し)によって高硬度を得ているマルテンサイト系ステンレス鋼とほぼ同等の値を示します。
SUS630の強度については、オーステナイト系ステンレス鋼の代表的な鋼種であるSUS304と比べると、2倍以上の値を示します。
SUS631については、SUS301をベースにAlを添加し、析出硬化によって弾性限を高めた鋼であるため、優れたバネ特性を有しています。
物理的性質と磁性
種類の記号 | 密度 kg/㎥ |
縦弾性係数 GPa |
比電気抵抗 (常温) μΩ・cm |
比熱 (0~100℃) KJ/kg・K |
熱伝導度 (100℃) W/m・K |
熱膨張係数 (0~100℃) X10-6 |
磁性 |
SUS630 | 7750 | 196 | 80 | 0.46 | 18.3 | 10.8 | 強磁性 |
SUS631 | 7750 | 204 | 83 | 0.46 | 16.4 | 15.0 | 強磁性 |
SUS630及びSUS631の物理的性質を上表に示しました。
析出硬化系ステンレス鋼の磁性について、固溶化熱処理状態では非磁性ですが、析出硬化処理後は強い磁性を示します。
そのため磁性を嫌う機器などで使用する場合には注意が必要です。
耐食性
各種ステンレス鋼の耐食性は次のようになっています。
オーステナイト系>析出硬化系>フェライト系、マルテンサイト系
析出硬化系ステンレス鋼は、焼入れによって硬化ができないオーステナイト系ステンレス鋼をベースに、熱処理によって高強度化できるよう改良された鋼種です。
そのため、オーステナイト系ステンレス鋼同様、クロムニッケル系の組成を持っており、耐食性はオーステナイト系ステンレス鋼には及ばないものの、クロム系のフェライト系ステンレス鋼よりは優れています。
また、一般的に材質の硬度と耐食性は反比例の関係を示します。
前述した通り、析出硬化処理ステンレス鋼(SUS630)の耐食性は、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304L、SUS316L)よりは劣るものの、マルテンサイト系ステンレス鋼(SUS420J2)やフェライト系ステンレス鋼と比べると優れており、硬度と耐食性のバランスが良好な鋼種です。
こちらの記事はMitsuri Media様の記事を参照しております。
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