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試作人基礎講座

公開日: | 更新日: | 試作人基礎講座

半導体不足はなぜ起こっているのか!?わかりやすく解説します

半導体は、パソコンやスマートフォンにも使用され、もはや日常生活だけにとどまらず社会生活を送る上で必要不可欠なものです。
しかし、2023年現在、半導体不足が問題となっております。
なぜこのような事態が起こっているのか?解かりやすく解説していきます!

半導体とは

半導体とは、「導体(電気を通す)」と「絶縁体(電気を通さない)」の中間的な性質を持つ物質のことを指します。
代表的な材料はシリコン(ケイ素)で、私たちの身の回りにある電子機器の中核部品として広く使われています。
たとえば、スマートフォン、パソコン、家電、自動車、産業用ロボットなど、現代のほとんどの電気製品は何らかの形で半導体に依存しています。
半導体が果たす役割の中心は、「スイッチ」としての働きと「信号処理・記憶」としての機能です。
スイッチの役割とは、電気を流したり止めたりすることで、デジタル信号(0と1)を表現することです。
この基本的な機能が、計算、制御、通信といったすべての電子処理の出発点になります。
一方、信号処理や記憶の役割では、データの演算、変換、蓄積などが行われ、CPUやメモリなどの部品において重要な機能を担っています。
半導体はその構造上、非常に微細な回路をシリコンウェハー上に描くことで作られます。
この微細加工技術は「ナノメートル」単位の精度で制御されており、数十億個のトランジスタ(電子スイッチ)が1枚のチップに収められていることも珍しくありません。
この構造により、膨大な情報処理が高速かつ省電力で可能になります。
また、半導体には大きく分けて「汎用半導体(ロジックICやメモリなど)」と「特定用途向け半導体(車載用IC、画像センサー、通信チップなど)」があります。
前者はスマホやPCなどの一般機器に、後者は自動車、医療、産業機器など特定分野に使われます。
近年では、AIやIoT、自動運転、5Gなどの技術革新により、より高性能で多様な半導体が求められています。
このように、半導体は「現代社会の頭脳」とも言える重要な部品です。
その基本構造を理解することで、なぜこの部品が常に大量に必要とされているのか、なぜ供給不足が深刻な影響を及ぼすのかが見えてきます。
次項からは、実際にどのような要因が不足を引き起こしたのかを掘り下げていきます。

現代社会における半導体の重要性

半導体は、現代社会におけるあらゆる分野の中核技術を支える存在です。
スマートフォンやパソコン、テレビなどの情報機器はもちろんのこと、自動車、家電、産業用ロボット、通信インフラ、さらには医療機器や航空宇宙分野まで、半導体が搭載されていない現代製品はほとんど存在しないと言っても過言ではありません。
そのため、半導体の安定供給が社会全体の安定運用に直結しており、今や“経済の血液”とも称されるほどの重要性を持っています。
まず家庭においては、スマートフォンやタブレットなどの通信端末に半導体が搭載されているのは当然ですが、冷蔵庫や洗濯機、電子レンジといった家電製品にも制御用マイコン(マイクロコントローラー)などの半導体が使われています。
これらは、操作の自動化、省エネ制御、故障診断などを可能にしており、半導体がなければ今のような「スマート家電」は成立しません。
次に自動車業界では、1台あたり数百〜千個以上の半導体が搭載されています。
エンジン制御、ブレーキ制御、エアバッグ、ナビゲーション、電動ドア、ADAS(先進運転支援システム)など、電子化された車両機能のほとんどが半導体で動作しています。
特に近年はEV(電気自動車)や自動運転の進展により、車載用半導体の重要性と需要は急激に高まっています。
産業分野でも半導体の活用は進んでいます。
工場の自動化を実現するためのロボットや制御装置には、多数のセンサーや制御ICが用いられており、これらが高精度な製造や品質管理を支えています。
医療分野では、MRIやCTスキャン、血糖値モニター、手術ロボットなど、生命を扱う高度な装置に半導体が不可欠です。
これらの装置は高性能な演算処理や正確な制御を必要とするため、最先端の半導体技術が活かされています。
さらに、社会インフラや通信網を支える基地局、データセンター、クラウドサービスなどにも半導体は大量に使われています。
特にAIや5G、IoT、ビッグデータといった現代のキーテクノロジーは、膨大な演算処理を高速かつ省電力で行える半導体があってこそ成立します。
企業の業務効率化やサービス高度化においても、これらの技術が果たす役割は大きく、それを支える半導体の供給が停滞すれば、社会全体の機能が低下する恐れもあるのです。
このように、現代社会のほぼすべての分野において、半導体は「裏方」として不可欠な存在となっています。
ひとたびその供給が滞れば、連鎖的に製品生産やサービス提供が停止・遅延するため、経済活動全体に深刻な影響を与えるのです。
半導体不足が単なる製品部品の問題にとどまらない理由は、ここにあります。

半導体が使われる主な分野

半導体は、その機能と性能の多様さから、実に幅広い分野で使用されています。
従来は主にコンピュータや通信機器といったIT分野が中心でしたが、現在では自動車、家電、産業機器、医療、エネルギー分野、さらには航空宇宙や軍事に至るまで、あらゆる分野で欠かせない部品となっています。
ここでは、代表的な活用分野と、どのような半導体が使われているのかについて解説します。

① 情報通信・IT分野

もっとも大きな半導体需要があるのが、パソコン、スマートフォン、タブレットといった情報通信機器の分野です。
ここでは、プロセッサ(CPUやGPU)、メモリ(DRAM・NANDフラッシュ)、通信IC(Wi-Fi、Bluetooth、5G用モデムなど)、電源管理ICなど、多種多様な半導体が使われます。
特に近年は、高速通信やクラウドコンピューティング、AIの進展により、データセンターやサーバーでの消費量も激増しています。

② 自動車分野

自動車業界でも、電子制御の比率が高まるにつれ、車載用半導体の使用量が年々増加しています。
エンジンやブレーキ、エアバッグなどの制御用マイコンはもちろんのこと、車載カメラ用の画像処理IC、電動モーター制御用のパワー半導体、車載ネットワーク制御ICなどが搭載され、自動運転化が進めば進むほど、その需要は膨らみます。
電気自動車では、インバーターや充電制御系にも高性能な半導体が必要不可欠です。

③ 家電製品

冷蔵庫、洗濯機、電子レンジ、エアコン、テレビなどの家電製品にも、制御用マイコンやセンサーICが数多く使われています。
省エネ性能の向上やスマート機能の実装(IoT対応など)が進んでおり、家庭内のさまざまな機器が半導体によって賢く動作しています。
また、液晶テレビや有機ELディスプレイには、画像処理用ICや駆動ICが欠かせません。

④ 産業機器・工場自動化(FA)

マシニングセンタでの加工の様子

工場の自動化・省人化に不可欠なロボットやNC工作機械、センサー、PLC(プログラマブルロジックコントローラー)にも、多数の半導体が搭載されています。
これらは、精密な制御と高速な処理を必要とするため、高い耐環境性能を持つ専用半導体が用いられることが多く、FA分野での需要も堅調に伸びています。

⑤ 医療機器

CTスキャナー、MRI、超音波診断装置、人工呼吸器など、医療機器にも精密な制御と高速処理が求められるため、高度な半導体が使用されています。
加えて、患者のバイタルサインをモニタリングするウェアラブル機器やリモート診療機器でも、小型・省電力なセンサーICや通信ICの需要が高まっています。

⑥ 通信・インフラ設備

5G通信の普及に伴い、基地局やルーター、光通信装置、衛星通信機器などでも、超高速かつ低遅延な処理を実現する半導体が求められています。
また、電力供給や交通、上下水道といった社会インフラの制御システムにも、半導体が多数使われており、サイバー攻撃対策や異常検知にも関与しています。
このように、半導体は単なるIT製品の部品ではなく、現代社会のあらゆる機能を支える「縁の下の力持ち」です。
だからこそ、特定分野だけでなく全体的な供給不足が生じると、連鎖的にさまざまな産業や生活インフラに大きな影響を及ぼすのです。

半導体不足が起きた主な原因

新型コロナウイルスによる供給網の混乱

半導体不足の大きな引き金となったのが、2020年初頭から世界中に広がった新型コロナウイルスのパンデミックです。
コロナ禍によって、半導体のサプライチェーン(供給網)は世界的に大きく混乱し、現在もその影響が尾を引いています。
半導体は高度に国際分業された製品であり、材料の調達から設計、製造、組立、検査、配送まで、複数の国・企業が関与しています。
そのため、パンデミックのような全地球規模の障害は、極めて深刻な供給遅延をもたらしました。
まず、感染拡大によって各国政府が実施したロックダウン(都市封鎖)や移動制限が、半導体関連工場の稼働停止や出荷遅延を招きました。
アジア圏を中心に、マレーシア、フィリピン、インド、台湾、韓国などの製造拠点が一時的に閉鎖され、製造ラインの再稼働にも時間を要しました。
特に、パッケージングやテスト工程を担う東南アジアの工場がストップしたことで、完成品が市場に届かなくなるという事態が頻発しました。
また、半導体製造に必要な原材料(シリコンウェハー、ガス、化学薬品など)や部品(フォトマスク、レジスト、リードフレームなど)も、物流の混乱により供給が滞りました。
国際航空便の減便や海上輸送の停滞、コンテナ不足などが重なり、サプライチェーン全体にボトルネックが生じました。
一部の材料は、わずか1社が世界シェアを握っている場合もあり、その拠点が停止するだけで全体に影響が及ぶ脆弱性が浮き彫りになったのです。
加えて、コロナ禍によって働き方が変化し、リモートワークやオンライン教育の急拡大が起きたことにより、ノートPCやウェブカメラ、タブレット、家庭用プリンタ、Wi-Fiルーターなどの需要が急増しました。
これにより、もともと供給が逼迫していたIT製品向けの半導体が一気に不足することとなり、産業全体に波及していきました。
一方で、コロナ初期には自動車メーカーが「景気が悪化する」という見通しのもと、半導体の発注を抑制したため、半導体メーカーはIT機器向けへの生産リソースを振り替えていました。
これが後に、自動車需要が予想外に回復した際に、必要な半導体が確保できないという「需給ギャップ」を生む原因となります(この点は次項で詳述します)。
このように、新型コロナウイルスは、世界中の産業活動に未曾有の混乱をもたらしました。
特にグローバルに分業された半導体産業においては、どこか1カ所でも機能が止まれば全体が止まってしまう、というリスクが現実のものとなり、結果として世界的な半導体不足が顕在化したのです。

自動車業界の需要予測ミスと回復

世界的な半導体不足において、最も深刻な影響を受けた業界のひとつが自動車産業です。
その背景には、自動車メーカーによる初期の需要予測の誤りと、それに続く急速な需要回復という、二重のギャップが存在していました。
この「予測ミス→急回復」の流れが、結果として自動車用半導体の供給難をさらに悪化させる要因となったのです。
新型コロナウイルスの感染拡大が始まった2020年初頭、自動車メーカー各社は、パンデミックによる経済活動の縮小を見越して、車両の生産台数を大幅に引き下げる方針を取りました。
これに伴い、部品メーカーへの発注も削減され、自動車用半導体の調達量も大きく落ち込みました。
実際、販売減を見越してサプライチェーン全体で調整が行われた結果、自動車向け半導体の製造枠は縮小され、半導体メーカーはその分の生産能力を需要が旺盛な家電・IT製品向けに振り替える決断を下しました。
ところが、実際にはパンデミック中も人々の移動手段として自家用車のニーズは想定以上に高く、さらに2020年後半から2021年にかけて各国で経済が回復傾向になると、自動車需要が急速に戻ってきました。
特に中国・アメリカ・欧州の大手市場での回復スピードは予想を上回るもので、自動車メーカーは再び増産に踏み切ります。
しかし、いざ再び半導体を発注しようとした段階では、すでに工場の生産ラインはスマートフォンやPC向け半導体で埋まっており、短期的に自動車用の製造能力を確保することが困難な状態になっていました。
自動車に使用される半導体の多くは、汎用製品ではなく、車載専用に長期間開発された信頼性重視の製品が多いため、簡単に他製品で代替することができません。
また、製造工程も長く、追加生産には数か月以上の時間が必要になります。
この結果、多くの自動車メーカーが部品不足を理由に生産ラインの一時停止や減産を余儀なくされました。
例えば、トヨタやフォルクスワーゲン、GMといった世界的メーカーですら、生産台数を下方修正する事態となり、全世界で数百万台規模の自動車が「作りたくても作れない」状況に陥りました。
この影響は下請けの部品メーカーにも波及し、サプライチェーン全体の混乱を招きました。
加えて、電気自動車(EV)や自動運転技術の進展により、車載半導体の重要性と使用量は増加の一途をたどっています。
1台あたりの半導体搭載数が増えることで、1つの遅延が車全体の完成に影響するため、供給網の不安定さがより大きなリスクとして現れているのです。
このように、自動車業界の需要予測ミスとその後の急回復は、半導体不足に拍車をかけた大きな要因の一つです。
半導体の需給バランスの変動が、いかに迅速に連鎖反応を起こすかを示す典型的な事例だと言えるでしょう。

テレワークと巣ごもり需要による急激なIT製品需要増

半導体不足を引き起こした要因の中で、急激な「需要の集中」は極めて重要な要素です。
特に2020年以降、新型コロナウイルスの感染拡大によって広がったテレワーク、オンライン学習、巣ごもり生活といったライフスタイルの変化は、IT・家電製品の爆発的な需要増を生みました。
これにより、PC、タブレット、スマートフォン、ゲーム機、ネットワーク機器などに使われる半導体の需要が、想定を大幅に上回るスピードで伸びていったのです。
まず、テレワーク(在宅勤務)の普及によって、企業は急きょノートパソコンやウェブカメラ、ヘッドセット、モバイルルーターなどを大量に調達する必要に迫られました。
同時に、従業員が自宅から業務システムへ安全にアクセスできるよう、VPN機器やサーバー、セキュリティ用ICチップなど、企業のITインフラを構築・拡張するための半導体も急増しました。
また、教育現場ではオンライン授業への切り替えが進み、学校や家庭が一斉にタブレットや学習用ノートPC、Wi-Fiルーターを導入しました。
GIGAスクール構想のような政策も後押しし、国内外で端末の調達が進められた結果、教育向けの低価格帯デバイスの需要が爆発的に伸びました。
一方、家庭内では「巣ごもり需要」によって、エンターテインメント関連の電子機器も大きく売り上げを伸ばしました。
ゲーム機(Nintendo Switch、PlayStation 5など)や大型テレビ、ストリーミング機器、冷蔵庫や洗濯機といったスマート家電の売れ行きが伸び、これらすべてに半導体が必要とされました。
特にゲーム機やテレビには高度な画像処理を担うGPUやSoC(System on a Chip)が使われており、製造負荷も高いため、需要集中による供給逼迫が深刻でした。
さらに、通信インフラを支えるデータセンターの拡充も、並行して進められました。
クラウドサービスの利用増加に対応するため、サーバー向けの高性能プロセッサやメモリの需要が急伸し、エンタープライズ向け半導体市場全体の逼迫にもつながりました。
こうした急激な需要増に対し、半導体業界は即応することができませんでした。
なぜなら、半導体の製造ラインは簡単には拡張できないからです。
生産設備は数千億円規模の投資が必要で、稼働までに1年以上かかることもあります。
さらに、すでに述べたように、他業界(特に自動車業界)の需要がいったん落ち込んだことで、製造ラインはすでにIT向けに最適化されており、新規注文の追加に対応する余地がなかったのです。
このように、テレワークや巣ごもり生活にともなう予想外の需要急増が、もともとひっ迫していた半導体生産能力に拍車をかけ、慢性的な供給不足を生む大きな要因となりました。
IT機器向けの需要が高まったこと自体は社会的にはポジティブな動きですが、それに対応できる供給体制の脆弱さが浮き彫りになったのです。

地政学的リスク(米中対立・台湾情勢など)

半導体不足の背後には、感染症や市場の需要動向だけでなく、地政学的リスクも大きく関わっています。
特に近年顕著になっている米中対立や、世界の半導体製造の中枢である台湾の地政学的不安定性は、サプライチェーン全体に大きな影響を及ぼしており、今後もそのリスクは高まり続けています。

米中対立と半導体規制

2018年以降、米中両国は貿易戦争を激化させ、特にハイテク分野において制裁と規制の応酬が行われてきました。
アメリカ政府は、中国政府との関係が深いとされる通信機器大手のHuawei(華為技術)やZTE(中興通訊)を国家安全保障上の理由で制裁対象とし、アメリカ製の半導体技術や装置を使った製品の供給を禁止しました。
この制裁の影響で、Huaweiは自社のスマートフォンや基地局製品に必要な半導体の調達が難しくなり、TSMC(台湾セミコンダクター)など主要ファウンドリとの取引が断たれました。
このときHuaweiや中国企業は、「買いだめ」とも言える大量発注を行ったため、短期間でグローバルな在庫が減少し、需給バランスが崩れました。
一方、アメリカ政府は2020年以降、先端技術の中国への流出を防ぐため、EUV露光装置やEDAツール(半導体設計ソフト)などの輸出制限を強化しました。
これにより、中国の先端半導体生産能力は抑制され、先端ノード(5nm・7nm)を製造できるのは事実上台湾・韓国・米国のみという状況が強まっています。
これらの動きは、半導体の供給に関する国際的な不安定性を加速させました。
アメリカが中国を締め出すことで、供給先が限られ、台湾や韓国への依存がますます強まるという皮肉な構図が生まれてしまったのです。

台湾情勢とサプライチェーンの脆弱性

半導体の世界最大手であるTSMC(台湾積体電路製造)は、最先端のロジック半導体の製造能力で他を圧倒しており、Apple、NVIDIA、Qualcommなど、世界のハイテク企業の重要な製品の多くがTSMCに依存しています。
つまり、台湾は事実上、世界の半導体製造の心臓部といえます。
しかし、台湾は地政学的に中国との緊張関係に常にさらされています。
中国は台湾を自国の一部とみなしており、軍事的・政治的な圧力を強めているのが現状です。
もし台湾海峡で紛争や封鎖、あるいは軍事侵攻といった事態が発生すれば、TSMCをはじめとする台湾の半導体生産施設の稼働に重大な支障が出る恐れがあります。
これは世界中のIT産業や自動車産業に即座に波及し、供給網が一気に麻痺する可能性すらあるのです。
さらに、台湾は地震の多い地域でもあり、自然災害によるリスクも無視できません。
電力供給や水資源の逼迫も、工場稼働を不安定にする要因です。
TSMCの工場が被害を受けることは、他地域の企業にとっても製造や納期に直結するため、世界のサプライチェーンが極めて一極集中している現状は大きな懸念材料とされています。

供給網の再構築の動き

こうした地政学リスクを背景に、近年では各国政府や企業が「半導体の国内回帰」や「供給網の多元化」を進めています。
アメリカはCHIPS法を通じて、国内での半導体製造への大規模投資を推進し、インテルやTSMC、Samsungに新工場の建設を支援。
日本でもラピダスやTSMC熊本工場の誘致を通じて、再び国産半導体の復活を目指しています。
地政学的リスクは、半導体不足の「直接的な原因」であると同時に、「長期的な不安定要素」でもあります。
今後のサプライチェーンの再構築や政策立案において、国家安全保障と経済安全保障の両面でこの問題をどう解決するかが、各国にとって大きな課題となっています。

今後の見通しと対応策

世界的な半導体不足は、ただの一時的な需給ミスマッチではなく、構造的・地政学的・技術的な課題が複雑に絡み合った長期的問題であることが明らかになりました。
この章では、各国の政策、サプライチェーンの再設計、そして今後の半導体需要の展望について解説していきます。

各国の半導体政策と国内生産強化の動き

溶接の様子

近年の半導体不足に直面して、多くの国が危機感を持ち、半導体産業を国家戦略の中核に据える政策を急ピッチで進めています。
これは、経済安全保障の観点からも、ハイテク産業の基盤維持という点からも極めて重要な動きです。
アメリカは2022年に「CHIPS and Science Act(通称CHIPS法)」を成立させ、国内の半導体製造基盤の強化に520億ドル以上を投入する方針を示しました。
これにより、インテル、TSMC、Samsungなどの企業が米国内に先端半導体の新工場を建設・拡張することとなり、グローバルな供給網の一角をアメリカに再構築する狙いです。
また、R&D(研究開発)への支援や大学との連携による人材育成にも力を入れています。
ヨーロッパも「European Chips Act(欧州チップ法)」を策定し、2030年までに世界の半導体生産の20%を欧州内で担うことを目指すと発表。
ドイツを中心にインテルの新工場が建設されるなど、欧州独自の生産能力確保を進めています。
一方、日本も遅れを取り戻すべく動いています。
経済産業省は「半導体・デジタル産業戦略」を策定し、TSMC熊本工場への補助金支援、ラピダスの設立(2nmプロセス技術の国産化)などを進めています。
また、装置・素材産業などで強みを持つ日本は、最先端プロセスだけでなく、全体のサプライチェーンを支える中核的プレーヤーとしての役割も評価されています。
このように、各国はかつての「グローバル分業」から脱却し、「経済安全保障」や「産業主権」の視点で国内生産能力を確保しようとする動きを加速させています。
ただし、工場建設には多額の投資と長期間が必要であり、すぐに供給が安定するわけではありません。

サプライチェーンの再構築と多元化

半導体不足の経験は、各国・企業にとってサプライチェーンの脆弱性と集中リスクを痛感させるものでした。
これにより、今後の課題として「サプライチェーンの再構築と多元化」が急務となっています。
現在の半導体生産構造は非常に偏っており、TSMC(台湾)やSamsung(韓国)など、特定の地域・企業への依存度が極めて高い状況です。
特に先端ノード(5nmや3nmなど)の製造は、TSMCとSamsungが事実上の独占状態にあり、地政学的・災害リスクに対して極めて脆弱です。
このリスクを回避するため、各国・企業は以下のような方向性で動き始めています。
・地域的な分散化:製造拠点をアジアだけでなく、北米、欧州、東南アジアなど複数地域に広げる。
・バックアップサプライヤーの確保:1社依存を避け、複数のファウンドリ・部材サプライヤーと契約する。
・在庫戦略の見直し:「ジャストインタイム」から「適正在庫」や「リスクヘッジ型」へ転換。
・設計と製造の一体化回帰:ファブレス企業(設計専業)が製造との連携を再強化。
また、クラウドインフラやデータセンター事業者(Google、Amazon、Microsoftなど)も、自社向け半導体を独自に設計・調達する動きを強めており、サプライチェーン主導権の争奪戦も始まっています。
一方で、供給網の多元化はコストと効率性のトレードオフを伴います。
多くの地域に製造拠点を持つことは、物流・設備・人材確保などの面で課題も多く、「安全保障」と「経済合理性」のバランスが求められるのが現実です。

半導体需要の長期的な拡大予測と懸念

短期的な不足の裏側で、半導体の需要は今後も長期的に拡大すると予想されています。
なぜなら、テクノロジーの進化と社会構造の変化が、今後の10年で半導体の利用場面をますます広げていくからです。
特に以下の分野で半導体の需要が急増しています。
・EV(電気自動車)・自動運転:1台あたりの半導体使用量は、ガソリン車の2倍以上とも言われており、今後の車載向け市場は爆発的に成長。
・5G・6G通信:高速通信に不可欠なRFチップや通信インフラ向け半導体が拡大。
・AI・機械学習:データセンター向けのGPU・アクセラレータなど高性能プロセッサの需要は年々増加。
・IoT・スマート家電:センサー・制御IC・通信チップなど、日常生活のあらゆるモノが半導体化。
・宇宙・防衛産業:国家戦略レベルでの先端チップの争奪戦が進行中。
世界の半導体市場は、2030年には1兆ドル市場に達するとする予測もあります。
これは2020年代前半の約2倍の規模です。
しかし、懸念もあります。
1つは、技術の微細化が物理的な限界に近づいていること。
3nm以下の製造にはEUV露光装置など超高度な技術が必要で、製造コストも急増しています。
また、電力・水資源の消費量が膨大であることから、環境負荷や持続可能性への配慮も必要になってきています。
さらに、慢性的な人材不足も大きな課題です。
設計、製造、装置開発、プロセス管理といった高度専門職の育成には時間がかかるため、各国が競争的に人材獲得に動いています。
これにより、サプライチェーンの安定性そのものが長期的に損なわれる恐れもあるのです。
最後に、地政学リスクが依然として続く中で、いつ、どこで新たな混乱が起こるか分からないという不確実性も、今後の供給見通しに暗い影を落としています。

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株式会社アスク

【この記事の著者】

株式会社アスク 営業部

小ロット・小物部品の製作を手掛け、手のひらサイズの部品製作を得意としています。国家検定1級技能士が多数在籍し、一日でも早く製品をお届けするためお見積りの回答は最短1時間!
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