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試作人基礎講座

公開日: | 更新日: | 試作人基礎講座

材料解説シリーズ~SKD11編~

本日は材料解説シリーズ~SKD11編~です。
用途や性質など解説していきますので、是非ご覧ください♪

SKD11とは

SKD11の試作品

SKD11とは、炭素工具鋼にクロムやモリブデン、バナジウムを添加した合金工具鋼のことです。
0.55~1.50%の炭素を含有し、ケイ素とマンガンの含有量を調整した炭素工具鋼に、各種元素を添加して性質の向上を図った物です。
耐摩耗性に優れ、熱処理時の歪みが少なく、熱処理によって硬度を上げることができます。
JIS規格に規定されている鋼材で、冷間金型用として分類されていることからダイス鋼とも呼ばれます。

なお、SKDは「Steel Kougu Dice」の略で、「Steel」は鉄鋼、「Kougu」は工具、「Dice」は金型を意味します。
また、SKD11の「11」に特に意味はなく、開発された順序を示しているようです。

冷間金型用として主流の鋼材で、多くの鉄鋼メーカーからDC11やSLDなどといった相当材が販売されています。
さらに近年では、SKD11を改良したDC53やSLD8などの合金工具鋼が数多く開発されています。

SKD11の用途

SKD11は、主にプレス機械などの中量から多量生産用の金型に用いられていますが、以下のような用途にも使われています。

・転造ダイス

転造盤用の金型のことです。
SKD11の高い硬度と優れた耐摩耗性から、SKD11が転造ダイスの材質に選ばれることがあります。
なお転造は、圧力を加えながら転がすことで円筒状の金属材料を形成する加工法で、ねじのねじ山の成形などに用いられます。

・フォーミングロール

ロール成形用の回転工具のことです。
硬度や耐摩耗性が必要であるため、材質にSKD11が選定されることがあります。
なお、ロール成形は、帯状の鋼板を複数のフォーミングロールが組み込まれた機械に通すことで成形する加工法です。

シャー刃

鉄板などの切断に用いられる切断機(シャーリングマシン)の刃のことです。
SKD11は、焼入れによって高い硬度が得られ、精度も維持できることから、シャー刃の材質に適しています。

・治具

耐摩耗性が必要な治具の材料にSKD11を用いることがあります。

・ゲージ

製品の検査工程で形状や精度などを検証するために用いられる測定ゲージ・検査ゲージのことです。
SKD11は、摩耗に強いうえに形状が変化しにくく、耐食性も比較的高いことから、各種検査ゲージの材料に用いられます。

・金属刃物

SKD11は、包丁の刃金の部分に使用されることがあります。
刃金とは、包丁の芯となり、刃となる部分のことです。
SKD11を刃金に用い、それをサビに強く、安価なステンレス鋼で挟み込んだものが多く流通しています。

SKD11のメリットとデメリット

SKD11の試作品

SKD11を用いるメリット

・耐摩耗性に優れる
・熱処理後には、HRC58~63程度の高い硬度が得られる
・熱処理後の変形が小さく、精密な製品の材料に適している
・冷間金型の材料の中では、流通性が良く、入手しやすい
・冷間加工用であるものの、熱間強度が高く、500℃ぐらいまでなら使用に耐えられる

比較のため、他の金属の硬度を例に挙げると、SUS304がHRC11(HV200)、焼きならし後のS45CがHRC4.63~20.64(HBW167~229)、焼入れ焼き戻し後のS45CがHRC13.5~27.71(HBW201~269)、焼入れ焼き戻し後のSUS440CがHRC55~61程度となっています。

SKD11を用いるデメリット

・熱処理後の硬度が高く、被削性が悪い
・熱処理前も硬度がHRC25程度と比較的高く、被削性は良くない
・熱処理後には、金属組織に粗大な炭化物が分散して、高速の摺動摩耗に弱くなる
・粗大な炭化物の存在によって被削性がさらに低下する
・粗大な炭化物の存在によって靭性が低下し、亀裂や割れが生じやすくなる
・溶接時に割れが生じやすく、350~450℃程度の予熱と後熱が必要
・焼入れ温度が1030℃程度と高い
・焼入れ温度と焼き戻し温度によって硬度が変化するため、熱処理時には適切な温度管理を要する

SKD11の性質

SKD11の試作品

物理的性質

SKD11は、密度や縦弾性係数(ヤング率)の値について、SS400やS45C、SUS304と大きな違いはありません。
一方、SKD11の熱伝導率については、SS400の58W/mKやS45Cの41W/mKと比べると低く、SUS304の16W/mKと比べると高くなっています。
熱膨張係数については、SS400やS45Cとほぼ同等の値で、SUS304の17.2×10-6/℃と比べると若干低めの値です。

このように、SKD11の高温特性は、優れた耐熱材料であるステンレス鋼に近く、熱膨張係数についてはSUS304よりも低いことから、温度変化に対する形状変化も小さくなっています。
そのため、プレス機械の金型などに用いる場合でも摩擦熱の影響を受けにくく、また検査ゲージなどの形状不変性が要求される材料に適しています。
しかし、熱伝導率の低さから、切削加工に伴う熱が拡散しにくく、切削工具が損傷しやすくなります。

化学的性質

SKD11の化学成分は、JIS規格で規定されています。
ただし、SKD11の化学成分の注意点として、タングステンは意図的に添加してはなりません。

SKD11はクロムを11~13%含有しており、そのクロム含有量はマルテンサイト系ステンレス鋼と同程度です。
しかし、ステンレス鋼は、クロム含有量が10.5%以上で、炭素含有量が1.2%以下の鉄鋼のことなので、炭素含有量が1.2%超のSKD11はステンレス鋼に分類されません。
また、ステンレス鋼の耐食性は、クロムの存在によって実現されているため、SKD11も比較的耐食性に優れていますが、炭素含有量が多いため、ステンレス鋼ほどの耐食性はありません。

その一方、SKD11は炭素含有量が多い分、硬度が高くなると共に焼入れ性が良くなっています。
さらに、モリブデンの添加は耐摩耗性や焼入れ硬化性の向上に、バナジウムの添加は、耐摩耗性の向上に寄与しています。

SKD11の硬度

焼き鈍しの熱処理温度と硬度

SKD11は通常、鉄鋼メーカーにより焼き鈍しを行った後の状態で出荷されるので、金属加工メーカーにとっては、硬度が熱処理前の硬度となります。

なお、焼き鈍しとは、鉄鋼を高い温度で維持することによって、金属組織を均一化するとともに、鉄鋼を柔らかくし、加工しやすくする熱処理のことです。
また、冷却方法にある「徐冷」は、炉の停止後も鉄鋼を炉内に入れたままにし、炉が冷えるのに合わせて鉄鋼を冷却する方法です。

焼入れ焼き戻しの熱処理温度と硬度

SKD11は通常、成形加工後に熱処理を行うことから、硬度が加工品の使用時の硬度となります。

なお、焼入れは鉄鋼を硬くするため、焼き戻しは鉄鋼の硬度を調整して靭性を高めるために行われる熱処理のことです。
また、冷却方法にある「空冷」は、炉の停止後、鉄鋼を炉から取り出して、常温の空気中で冷えるのを待つ方法です。

近年では、熱処理後のSKD11に放電加工などを行うことがあることから、様々な条件で熱処理を行うことが多くなっています。

例えば焼入れでは、以下のような熱処理条件が採用されています。
●焼入れの熱処理条件
・980~1010℃ 油冷
・1010~1030℃ 油冷
・1000~1030℃ 空冷
・1030~1050℃ 空冷

油冷は、炉の停止後、鉄鋼を炉から取り出して、油中で冷却する方法です。
空冷と比較すると迅速な冷却が可能で、硬度が高くなりますが靭性は低くなって割れやすくなり、熱処理歪みも大きくなる傾向があります。
また、焼入れ温度によっても、鉄鋼の性質は変わります。
焼入れ温度が高いほど、焼き戻し後の硬度が高くなりますが、靭性は低くなり、熱処理歪みも大きくなります。

焼き戻しは焼入れとは逆に、焼き戻し温度が高いほど、硬度や耐摩耗性は低下し、代わりに靭性が向上します。

加工方法

切削加工

SKD11は、熱処理前に切削加工で成形し、熱処理後に研削加工で仕上げを行うという方法がよく採用されます。

SKD11は、熱処理前でもS45Cなどの炭素鋼よりも被削性が劣りますが、切削加工が難しいというわけではありません。
一方、熱処理後は硬度が高くなるため、切削加工を行うのは困難です。
そのため、熱処理前の切削加工によって、成形を完了させてしまうことがよくあります。

しかし、熱処理によって変形が生じることがあるため、高い精度が必要な場合は、熱処理後に研削加工などで仕上げを行います。
ただし、熱処理後のSKD11は研削加工も困難であるため、熱処理後の加工が最小限となるよう、熱処理前の切削加工をしっかり行っておくことが重要です。

放電加工

SKD11は、放電加工による変形が少ないために放電加工の加工性が良く、熱処理後の加工方法として放電加工がよく採用されます。

放電加工は、材料と電極との間でアーク放電を発生させ、材料表面を溶かして除去することで成形する加工法です。
硬度によらない加工法であるため、高硬度である熱処理後のSKD11でも問題なく加工することができます。

ただし、放電加工を行う場合は、150~200℃の焼き戻しではなく、500℃以上の焼き戻しを行うことが推奨されます。
それは、低温焼戻しでは、焼入れによって金属内部に生じた炭化物や応力などが多く残留し、炭化物や残留応力が放電加工による熱影響を受けて亀裂や変形の原因となることがあるからです。
しかし、高温焼戻しを行う場合は、硬度がHRC57以下と低いため、加工品の寿命が短くなるという欠点もあります。

表面処理方法

めっき

SKD11は、クロムをマルテンサイト系ステンレス鋼と同程度含有しているので、SS400やS45Cと比べると錆びにくい材質です。
しかし、炭素量が1.4~1.6%と高いことから、ステンレス鋼ほどの耐食性はなく、めっきなどによって防錆対策を取ることが推奨されます。

SKD11に対しては、硬質クロムめっきを施すことが多く、このめっきによって耐摩耗性の向上なども期待できます。

熱処理

SKD11には、更なる硬度や耐摩耗性を得るためや高温焼戻しによる硬度の低下を補うために、以下のような表面改質熱処理を行う事があります。

・窒化処理

高温焼戻し温度程度まで加熱した窒素またはアンモニアガスの雰囲気中にSKD11を保持することで、表面に窒素を浸透させて表面を硬化します。
HV1000以上の表面硬さも実現可能な方法です。

・PVD(物理蒸着)

真空中で高温焼戻し温度程度まで加熱した成膜物質(窒化チタンなど)を付着させて、SKD11の耐摩耗性や耐食性の向上を図る方法です。

・CVD(化学蒸着)

真空中または大気中で焼入れ温度程度まで成膜の元となる物質を加熱し、化学反応を励起・促進してSKD11表面に薄膜を形成する方法です。
この方法もまた、耐摩耗性や耐食性の向上が期待できます。

ただしこれらの方法では、SKD11を高温に暴露することになるため、熱による変形などに注意する必要があります。

こちらの記事はMitsuri Media様の記事を参照しております。

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株式会社アスク

【この記事の著者】

株式会社アスク 営業部

小ロット・小物部品の製作を手掛け、手のひらサイズの部品製作を得意としています。国家検定1級技能士が多数在籍し、一日でも早く製品をお届けするためお見積りの回答は最短1時間!
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