三価クロメートとは!?種類や特徴など解説します!
本日は三価クロメートについて解説していきます!
種類や特徴、六価クロメートとの違いなど解説していきますので、是非ご覧ください♪
三価クロメートとは
三価クロメートとは、三価クロムを含むものの六価クロムは含まない溶液に金属を浸すことによって、金属表面で化学反応を起こし、金属表面に防食効果などを発揮する皮膜を形成する化成処理のことです。
「三価クロム化成処理」や「クロメートフリー処理」とも呼ばれます。
単にクロメート処理と言う場合、六価クロムで皮膜を形成する化成処理を指します。
しかし、この六価クロムは、生体に有害で欧州などで規制されていることから、現在はクロメート処理から六価クロムを含まないクロメートフリー処理へと移行が進んでいます。
そのため最近では、クロメート処理を「六価クロメート処理」と六価クロムを用いることを明示して呼称したり、記述したりすることが増えています。
三価クロメートの適用対象は、主に亜鉛めっきや亜鉛合金めっきが施された鋼材や金属製品で、めっきの後処理として施されるのが三価クロメートです。
具体的には、溶融亜鉛めっきや電気亜鉛めっきが施されたもの、ガルバリウム鋼、ガルタイト鋼が素材のものなどが挙げられ、これらのめっき製品には、六価クロメート処理と三価クロメートのどちらかが適用されています。
なお、ガルバリウム鋼とガルタイト鋼は、めっき浴成分によってめっき処理された鋼です。
三価クロメートの用途は、亜鉛めっきや亜鉛合金めっきの用途とほとんど同じで、自動車や輸送機器、電気機器、建築部材、事務機などと幅広い分野に及んでいます。
特に、自動車や電機などの輸出企業が取り扱う製品は、欧州市場などを考慮して、三価クロメートへの切り替えが進んでいます。
しかし、建材・建築などの市場が国内中心の企業は、未だ六価クロメートが適用された製品を使用しています。
三価クロメートの効果
三価クロメートの主な効果は、耐食性の向上と外観の色調変化です。
そもそも、その下地である亜鉛めっきには、以下のような優れた効果があります。
・鉄の表面を物理的に被覆して、腐食原因となる水と酸素を鉄の表面から遮断する
・中性環境で酸化皮膜を形成し、良好な耐食性を発揮する
・鉄の身代わりとなって錆びる犠牲的防食作用が働くため、亜鉛めっき皮膜に傷が生じて鉄素地が一部露出しても、防錆効果を発揮する
・めっき処理の直後は、銀色を呈する
・複雑な形状でも、均一な厚さでめっき皮膜を形成することができる
・コストが低い
・量産加工が容易
しかし、亜鉛めっきは、大気中で使用していると、時間経過とともに酸化被膜が厚くなって光沢を失います。
さらに、大気が汚染されていたり、湿度が高かったりするような腐食環境下では、亜鉛自身の腐食によって白錆びを生成します。
その点、亜鉛めっきの上に三価クロメートを施すと、その化成皮膜が空気に対して反応性のないバリヤー層として亜鉛めっきを保護する上、亜鉛の白錆び発生も長期間防止するため、高い防錆効果が期待できます。
また、三価クロメートの処理液や処理時間などを制御することによって、外観の色調をある程度変化させることが可能です。
亜鉛めっき直後の銀色そのままの色調から、青白い色、淡い黄色、黒色というように、いくつかの色調を付与することができます。
そのほか、三価クロメートには以下のような効果もあります。
・塗料などの密着性向上
・耐指紋性や防汚性が向上
・亜鉛めっきのみよりも電気抵抗は高いが、導通性は維持される
三価クロメートの表記
六価クロメートの表記がJIS規格(JIS H 8625:1993)にて定められているのに対し、三価クロメートの表記は規定されていません。
そのため、現状は六価クロメートのJIS規格に従って表記し、注釈として「三価クロメート」や「TC(Trivalent Chromate)」などと追記することが標準となっています。
例えば、電気めっきで鉄生地に8μm厚の亜鉛めっきをした後、淡黄色の三価クロメートを施す場合は、「Ep-Fe/Zn8/CM1B」と記述します。
なお、「Ep」は電気めっきを表す記号で、クロメート処理(六価クロメート)の記号「CM」は色調によって下表のような種類があります。
クロメート皮膜の種類 | 記号 | 代表的色合い |
光沢 | CM1A | 透明、青味のある透明 |
淡黄色 | CM1B | 淡黄色の干渉模様 |
黄色 | CM2C | 黄色の干渉模様 |
緑色 | CM2D | オリーブ、グリーン、ブロンズ、褐色 |
なお、三価クロメートと六価クロメートの双方に黒色のクロメート処理がありますが、これもJIS規格に規定されていないので、「Ep-Fe/Zn8(三価黒クロメート)」と追記することになります。
酸化クロムめっきとの違い
三価クロメートと類似した言葉に「三価クロムめっき」がありますが、三価クロムめっきは、三価クロムが安定的に存在するめっき浴に金属を浸し、電流を流すことで、金属表面にクロムのめっき皮膜を生成する表面処理法です。
実際、三価クロムめっきと三価クロメートは、皮膜の化学組成が大きく異なります。
ただし、皮膜の化学組成は一例であり、めっきはめっき浴に、化成処理は処理剤によって異なります。
なお、三価クロメートの黒以外の処理剤には、有機酸を含有する有機系とシリカを含有する無機シリカ系があります。
三価クロメートの種類と特徴
三価クロメートは色調の違いにより、大きく「三価白」と「三価黒」の2種類に分けられます。
その色調の違いは、化成処理の処理剤や処理時間などによってコントロールされています。
ただし同じ色の処理剤でも、その成分や処理条件などは処理剤によって異なります。
そのため、処理剤のメーカーによって、色調も変わってくるので注意が必要です。
三価白
三価白は、銀色、青白色(青みを帯びた銀色)または淡黄色(黄みを帯びた銀色)の色調となるように調整された三価クロメートです。
「三価白クロメート」や「三価ホワイト」とも呼ばれます。
銀色となるのは、三価クロム化成皮膜が0.02~0.05μm程度と薄く、クリアーで亜鉛めっきの色調がそのまま表れるように調整された三価クロメートです。
「三価無色クロメート」と呼ばれることがあります。
青白色となるのは、三価クロム化成皮膜が0.05~0.3μm程度の厚みで、六価クロメートで青白色となる「ユニクロ」の代替となっている三価クロメートです。
「三価ユニクロ」や「三価光沢クロメート」とも呼ばれています。
淡黄色となるのは、三価クロム化成皮膜の膜厚を0.2~0.5μm程度とした三価クロメートです。
「三価有色クロメート」とも呼ばれます。
このように、三価白は膜厚によって、銀色、青白色、淡黄色と色調が変化します。
膜厚は耐食性にも影響し、被膜が厚いほど耐食性が高くなるという特徴があります。
そのほか、三価白による化成皮膜は損傷すると、皮膜中の成分と露出した亜鉛が反応し、自己修復する機能も備えています。
三価黒
三価黒は、黒色となるように調整された三価クロメートです。
その処理剤に添加された硫黄とコバルトが反応し、黒味成分となる硫化コバルトへ変化することによって黒色が実現されています。
「三価黒クロメート」や「三価ブラック」とも呼ばれます。
三価黒による化成皮膜は、0.2~0.5μm程度の厚さです。
この膜厚は、三価有色クロメートと同程度であることから、耐食性についても三価有色クロメートと同水準となっています。
ただし、化成皮膜の表面は微小な凹凸を形成するため、光が反射しにくく、光沢のないマットな仕上げりとなります。
また、耐傷性が低いという欠点もあります。
そのため、三価黒の化成皮膜には、多くの場合、三価黒の後処理としてクリアー塗装を施して、透明な塗膜でコーティングを行います。
それにより、耐傷性を高めると共に、光沢を付与して、光沢感のある美麗な黒色を実現しています。
三価クロメートと六価クロメートの違い
三価クロメートと六価クロメートの違いは、六価クロムの有無です。
六価クロメートの処理液や化成皮膜は、三価クロムと六価クロムの双方を含有する一方、三価クロメートの処理液や化成皮膜は、三価クロムは含むものの、六価クロムはほぼ含有していません。
毒性の有無
上述したように、六価クロムは人体に対して強い毒性を示す一方、三価クロムには毒性はありません。
六価クロムは、接触や吸引、接種によって、皮膚炎や皮膚潰瘍、吐き気、嘔吐、下痢などを引き起こし、消化器系に対しては、胃腸炎、胃がん、大腸がん、肝機能障害、呼吸器系に対しては、気道炎、呼吸障害、肺がんの原因となります。
したがって、六価クロメートの処理液については、作業者への付着はもちろん、周囲への飛散も避けることが重要です。
処理液から水分が蒸発し、粉末状となった六価クロムが空気中に浮遊することがあるからです。
地下に浸透し、井戸水などを汚染する可能性もあります。
一方、三価クロムには全く毒性はなく、自然界の河川や海洋などにも存在している物質です。
有毒どころか人間にとっては必須ミネラルであると考えられており、欠乏症ともなると糖の代謝異常を起こすとされています。
色調の違い
三価クロメートと六価クロメートでは、実現可能な色調も異なります。
六価クロメートの色調には、三価クロメートの色調にはない緑色などが存在し、六価クロメートの方が色調のバリエーションが多くなっています。
また、それぞれの色調も六価クロメートの方が鮮やかだったり、光沢が強かったりするなど、六価クロメートの方が優れているとされています。
しかし近年では、三価クロメートでも六価クロメートの色調をほぼ実現できるようになっているほか、三価クロメートで一般的な色調以外の色調も表現できるようになっています。
耐食性の違い
耐食性について、三価クロメートは六価クロメートと比べて同等か、上回るとされています。
下表は、三価クロム化成皮膜と六価クロム化成皮膜に対し、5%濃度の塩水を吹き付けたときの白錆び発生までの時間を記載したものです。
下表から、無色または光沢の化成皮膜では、三価クロメートの方が六価クロメートよりも耐食性が高く、有色や黒色の化成皮膜でも、三価クロメートは六価クロメートと比べて、同等以上の耐食性を示しています。
色調の種類 | 塩水(5%濃度)噴霧時の白錆び発生までの時間 | |
三価クロメート | 六価クロメート | |
無色(銀色)、光沢(青白色) | 72~120時間 | 24~72時間 |
有色 | 120~360時間 | 120~240時間 |
緑色 | - | 240時間以上 |
黒色 | 120~240時間 | 120~240時間 |
また、三価クロム化成皮膜は、六価クロム化成皮膜に比べて、高温時の耐食性が高いという特徴があります。
六価クロム化成皮膜は、約70℃以上の高温で皮膜にクラックが発生し、耐食性が著しく低下します。
一方、三価クロム化成皮膜は、約200℃の高温でもクラックが発生しにくく、それゆえに耐食性の低下が起こりません。
自己修復機能の違い
上述した三価クロム化成皮膜の自己修復機能は、六価クロム化成皮膜にも備わっており、六価クロム化成皮膜の自己修復機能の方が効果が高いとされています。
六価クロム化成皮膜の自己修復機能は、六価クロムによって実現されます。
六価クロム化成皮膜では、皮膜が傷ついた場合でも、六価クロムが溶出して露出した亜鉛めっきを被覆し、その部分を化成皮膜に変化させます。
そのため、六価クロム化成皮膜では、色調にかかわらず、自己修復機能が働きます。
一方、三価クロム化成皮膜では、皮膜中の成分が亜鉛めっきと成膜反応を起こすことで、皮膜が再生されます。
この成膜反応の反応性は、三価白クロメートの有機系で高く、無機シリカ系では低いために、有機系の方が自己修復機能の効果が高くなっています。
なお、三価黒クロメートの化成皮膜には、自己修復機能はありません。
コストの違い
三価クロメートは、以下のような理由から、六価クロメートと比べると高コストになるとされています。
・三価クロメートの処理剤が高価
・厳密なpH管理の必要性から処理液の管理が難しく、成膜反応が遅いことから処理時間も長くなるため、処理コストが高い
しかし近年、六価クロメートから三価クロメートへの代替が進展したことで、三価クロメートのコストは低下してきており、需要が多い色調・性能の三価クロメートでは、六価クロメートと同程度のコストとなっています。
ただし、需要の少ない色調の三価クロメートはまだ割高であり、トップコートなどで性能を高めた三価クロメートは、当然ながら高コストです。
三価クロム化成皮膜からの六価クロムの溶出について
以上のように、三価クロメートは、六価クロメートと様々な違いはあるものの、新たな処理剤の開発や処理方法の高度化、需要増によるコスト低下などにより、六価クロメートの代替としての役割を十分に果たしています。
しかし、三価クロム化成皮膜にコバルトを含有している場合、皮膜に六価クロムが含まれることがあります。
これは、皮膜への水分の浸透などによってコバルトが不安定化して三価クロムを酸化し、六価クロムへと変化させることがあるからです。
そして、三価クロム化成皮膜から六価クロムが溶出してしまう事例も発生しており、その対策が処理剤のメーカーなどにより進められています。
ただし、注意点として六価クロムが溶出した事例についても、その量はRoHS指令などで規定された最大許容含有量よりも微量であるため、特に規制に抵触したわけではなく、欧州などでの販売ができなくなったわけではありません。
なお、このコバルトの不安定化は、以下のように不安定化の原因を排除することによって抑制することができます。
・三価クロム化成皮膜中のコバルト濃度の低減
・三価クロム化成皮膜のクラック発生の抑制
・三価クロム化成皮膜への水分の浸透を防止
そしてこれらの実現には、以下のような対策が効果的です。
・三価クロメートの処理液中のコバルト濃度を下げることで、皮膜中のコバルト濃度の低減が可能
・三価クロメートの処理時間を短くし、処理温度を下げることで、皮膜中のコバルト濃度の低減が可能
・三価クロム化成皮膜の乾燥温度を低くすることで、皮膜のクラック発生の低減が可能
・高温多湿環境下での保管や使用を禁止することで、皮膜への水分の浸透を防止することが可能
・三価クロメートの処理液にコバルトの酸化抑制剤を加えることで、コバルトの不安定化の抑制が可能
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